長い長い眠りから覚めると、末っ子と五男が俺のことを覗き込んでいた。


「………おそ松兄さん…!やっと起きたの、本当に寝坊助だよね!」

「おそ松兄さーんだー!!」

「みんなに連絡しなきゃっ!」


俺の頭を撫でたり、抱きついてきたり、痛い、痛いから!十四松!加減してくれよ!

二人とも涙目だし、てか、なんで、泣いてんだよ。


話を聞くと、ここ2週間…俺はどうやら意識不明だったらしい。確かに身体はうまく動かないし、ぼーとはするけど、それはさほど毎朝のそれと変わらない気がした。


眠っていた間…夢を見ていた気がする。それはもちろん大好きな彼女のことで、あ!?てか、2週間も寝てたってことは日曜日にせっかくこぎ着けたデートをドタキャンしたってことじゃん。なにそれ、バカじゃないの俺、なんで、今まで寝てたんだよ。事故に巻き込まれてる場合じゃなかっただろ!??せっかくのチャンスだったのに!!あのトラックの運転手絶対ゆるさねーし!



「…なまえちゃんも心配してたよ、」

「すごくすごく泣いてたよねっ!!?」

「そっかー」


一松の彼女なのに、俺のために泣いてくれるとかやっぱりなまえちゃんは優しい女の子だ。自分の女の子を見る目は完璧だなと1人うんうんと頷いた。この身体が元に戻ったら、なまえちゃんに会いに行こう。早く、会いたい。あーもう釈明とかとりあえず置いておいて、君のことこれでもかってくらい、きつくきつく抱きしめたい。
あと、キスもたくさんしたいし、できればそれ以上もしたいし。ほんとさーなまえちゃん不足で俺、そろそろ死んじゃうからー!!



「おそ松兄さん、本当に愛されてるよねー」

「誰に?」

「誰って1人しかいないでしょ!なまえちゃんにだよ!」

「え、一松の彼女だろ?」

「もうさっー!まだ言ってんの?!」


トド松の言っている意味がわからない。もともとは俺の大事な大事な彼女ですけど!?まあいろいろあって、一松に取られたんですけど!?全部全部、俺のせいだけども、それははっきりと覚えてる。


「なまえちゃんがどれだけおそ松兄さんのこと想っているのか、証明してあげるよ!」だとか、君に最後の大嘘をつくことにしたのは、目薬を取り出したトド松が言い出しっぺだから。

俺じゃないから!










移動するために、片付けられた部屋を目の当たりにして、君は俺が死んだと思い込んだ。君の泣き顔はあまり見たくはなかったのだけど、俺のためにぼろぼろ泣き崩れる君の姿をみて、嬉しく思ってしまった。


「トド松!おそ松兄さん連れてきたよー!」

「うん、ありがとう、十四松兄さん!」


十四松が押す車椅子に、俺が乗ってるのを見つけると、君はまた泣き出した。

「おそ松くん、」

少しずつ君は近づいてきて、俺と目線を合わせるために、君はしゃがみ込む。
久しぶりに近くで君の顔を見つめて、触れたい気持ちが溢れ出す。うまく動かない腕をゆっくり広げて、「おいで」って言えば君は俺の身体を気遣ってくれてるのか、優しく抱きしめてくれた。

この瞬間、俺、生きてて良かったって心底思ったよ。君のこと置いていけないよ、だって、ヒロインのこと守るのがヒーローの役目だもんね。


「………おそ松くん、ごめんね、」

「なんで謝るの、むしろ、謝るの俺の方だから!」

「ううん、気づいてあげられなくてごめんね、」

「俺こそ、嘘ついてごめん、」


君の身体は少し痩せこけたように思えた。きっと、たくさんたくさん泣かして、悩ませて、不安にさせて、傷つけてしまったんだろう。

嘘つきを演じたのは、君の気持ちを試すためだったけど、それで得たのは、自分がどれだけなまえちゃんのこと好きで、大切かってことだけだった。だって、なまえちゃんは最初から迷わずに俺だけを見ていたでしょ?確かに騙された君だけど、最初から最後まで君の心を独占していたのは他の誰でもない俺でしょ?もう、試したりしないよ。


「…世界で一番おそ松くんのこと、愛してる。」

「うん、俺も愛してる。」


あとさー、もう一つ証明できたことがあるね。
俺となまえちゃんは、例え、離れたとしても、何度でも何回でもこうして、元に戻ってしまうんだって。
また俺が嘘をついて、喧嘩して、仮に別れたとしても、嘘に埋もれて、迷ったとしても、2人を繋ぐ見えないものが、こうして、2人を引き寄せてしまう。


それってすごくない?!


「……ねえ、なまえちゃん、なまえちゃんが大学卒業したら一緒に暮らそう。」



俺って、こんな性格だからさーやっぱり、嘘つきやめるって約束はできない気がするんだよね。絶対この先、些細な嘘をついてしまうと思うんだ。

ならさ、ずっと俺のそばにいて、監視しててよ。
俺、考えてたことがあるんだ。
眠っていた間、ずっとずっと、夢見ていたことがあるんだ。

その夢を叶えるには君が必要なんだ。

「本当に?」

「うん、本当だよ。」


君は笑う。嬉しそうに、その表情につられて、俺は君が一番好きだと言ってくれた笑顔を向けた。