「なにかあったら、連絡するから、ライン教えてよ。」松野家はどうやらトド松くんしかスマホを持ってないそうで、私は迷わずに自分のIDを教えてあげた。


本当は四六時中、おそ松くんのそばにいたいけど、それは叶うわけなくて、私は大事な人のいない日常を過ごすしかない。

おそ松くんのこと考えるとバイト中も上の空になってしまって、凡ミスばっかりしてしまって…でも、こんなんじゃだめだ。しっかりしないと、今の私の顔を、目を覚ましたおそ松くんが見たら、きっと心配してしまう。

大丈夫。きっと大丈夫。だって、おそ松くんは無敵のヒーローだから、そんな言葉が似合うのは彼くらいしか思いつかない。
「あの人、簡単には死ななそう。」って、前にチョロ松くんが言っていた気がするし、おそ松くんには主人公補正とやらがかかっているはずだから。

だから、もう泣かない。私は笑顔で、おそ松くんのことを迎えてあげるって決めたんだ。



バイトの休憩中にスマホをいじっていると、ぴこんっとラインの通知音が鳴った。
「いまから、病院これる?」って一言だけの文字に、やっぱり不安は隠しきれない。
私は散々振り回された嘘を、バイト先について、早退することにした。











この病院に足を運ぶのは、もう何度目になるのか。スマホを確認するけども、トド松くんから返信はない。

なにがあったんだろうか、もしかして…なんて、マイナスな方向に考えてしまう自分が嫌になる。
おそ松くんはいなくなったりしない、絶対、私のそばから離れない…唱えるみたいに心で繰り返して、自分に言い聞かせるけども、怖くて、手が震えてしまう。


あっという間にそこにたどり着いてしまって、しんと静まりかえる廊下がさらに私の不安を煽るみたいだった。


目を瞑ったまま、625号室の扉を一気に開けた。









ゆっくりと開いた目に映ったのは、
まるで異世界のような、なにもない部屋に夕日が降り注ぐ。

ベットは片付けられていて、換気のために開けられた窓から入ってくる風に、真白いカーテンが揺れていた。

そこには誰もいない、いるはずの姿がない。私のすごくすごく好きな人がいない。


「……なまえちゃん、」

「トド松くん…」

「あのね、おそ松兄さんね、」

「嘘だよね、」



私の問いにも答えられないようで、トド松くんの目からは涙が溢れる。どうして、なんで泣いてるの?おそ松くんはどこにいったの?
聞きたいことあるのに、なにも出てこない。喉が詰まって、声が出せない、出せない代わりに、泣き尽くしたはずなのにまた涙が出てきた。
もう泣かないって決めたのに、でも、おそ松くんのいない世界で、私はなんのために笑えばいいのかわからないよ。




おそ松くんは死んでしまった…?












「なまえちゃん、まーた騙されてやんの。」

大好きな笑顔で、大好きな声で、彼はそうやって呟いた。
私はやっぱり、涙は止まらなかった。