日曜日。おそ松くんと二人で出かけようって、約束をしていた日。

おそ松くんに選んでもらったスカートと、お気に入りのトップス。それから髪も巻いて、化粧もいつもより時間をかけて、今日は一段と気合を入れた。

だって、好きな人に会える日だから。

駅に15時に待ち合わせなのに、30分前に着いてしまって、何度もきょろきょろする私は落ち着きがない。


私の心はもう決まっていた。

おそ松くんに抱きしめられたときに、私の中の疑惑は確信に変わった。長男故なのか、おそ松くんは身内の頭を撫でるのが好きなのだと思う。そして、私は撫でられるのが好きだ。
あの時、彼は私を抱きしめつつ、数回優しい手つきで触れてくれて、その心地よさは私がすでに知ってるもので。

やっぱり、人を見極めるのは言葉でも、姿でもなくて、一番は心の波長じゃないかと、直感ってものが何よりも大事なのだと改めて学んだこと。

私の彼氏は、『彼』は松野おそ松くんで間違えない。


全部全部、嘘っていうことが嘘だったの。


きっと、彼なりになにか考えがあって、私を騙すに至ったのだろう。
その何か…は、やっぱり聞かないほうがいいかもしれない、そんな気もする。

でも、理由がなんであれ、私はおそ松くんのことなら何度でも受け止めてみせるの。
今度こそ見失わないから、ちゃんとその手を掴んでるって決めたから。絶対、離さないから。

15時を過ぎても、彼は来ない。だって、いつものおそ松くんなら15分の遅刻はお決まりだったもの。




だけど、15時半、16時になっても、彼は現れなかった。











「おそ松兄さんなら、来ないよ。」

「一松くん…。」


16時半。ようやく待ち合わせ場所に来たのは、おそ松くんにそっくりな顔で、一松くんとはやっぱり気まずさが拭えない。それは初めて二人きりになった時からで、苦手意識って一度感じたら中々変わらない。

じっと、眠たそうな眼がわたしを見つめる。
しばらく無言が続いて、それを破ったのは彼のが先だった。



「…やめときなよ、おそ松兄さんなんて、」

「でも、私の気持ちは変わらないんだ。」

「なんで、僕のとこには来てくれないの。だって、同じ顔だし。そもそも、あんただって見分けられなかった。」


「………ごめんね、」




おそ松くんの嘘も、一松くんの嘘も、私が最初から見抜けていたら起こらなかったことで、
私がおそ松くんのことをもっと理解してたら、きっと彼を傷付けなくて済んだはずだから。言い訳する権利はないし、私には頭を下げて謝罪をすることしかできない。

私は、一松くんのこと、好きにはなれない。



「赤塚病院…」


「え?」

「おそ松兄さん、今、そこにいるんだ。」

「なんで…?」


トラックに跳ねられた。交通事故。一松くんから告げられた事実を上手く飲み込めなくて、その言葉が頭をぐるぐるとまわる。
思わず、聞いてしまった「嘘じゃないよね?」に返ってきたのは、「本当だよ。」って一言だった。

だから、おそ松くんはここに来れない。
怪我は軽症なのか、それとも、動けないくらい重症なのだろうか。どちらにしろ、彼は怖い思いをしたに違いない。



「……今から、おそ松くんに会いに行ってくる。」


私はショックを受けてる場合じゃないし、できれば、今すぐにでもそばに行って支えてあげたい。

入院してるということは生きているということで、私は彼がちゃんと息をしていいれば、それ以上に望むことはなかった。


だって、おそ松くんは私にとって誰よりも何よりも大切で失いたくない存在だから。大好きだから。





「あ、でも、行っても意味ないかもね。」

「え…?」

「だってさ、」







意識戻ってないんだってさ。このままいくと、どちらかというと死ぬ確率のが高いってよ。

そんな一松くんの声は、悪魔の囁きのように聞こえた。
やっと、今度こそ離さないって決めたのに。

私はまたウソに騙されているの?
ねえ、誰か、嘘だと言ってほしい。