なまえちゃんはなかなか忙しい子だ。学生でありながら一人暮らしをしていて、アルバイトもびっしりシフトを入れている。あまり親には負担をかけたくないからだと、そんな彼女の一生懸命なところを尊敬していた。それに比べて俺は…でも、彼女はこんなクズな俺でも好きだと言ってくれた。


かわいいから、いつか他の男に取られちゃわないかなーなんて心のどこかで不安を抱えていた。大学を卒業して、そして、社会人になって、俺なんかよりもいい男に出会って。
情けないことに、俺には余裕がなかったわけよ。
だから、あんな大嘘ついて、君を試すようなことした。

君はチョロ松と俺の見分けがつかなかったと、そう言ったよね。あの時に、俺はまず、この6人の中で一番にならなきゃと空っぽの脳みそはそう思いついちゃったんだ。

今思えば、そんな馬鹿な真似するべきじゃなかったと、本当に本当に後悔してる。


それで、自分から手放したくせに、やっぱり心配で、チョロ松の時もトド松の時も、カラ松の時も尾行していた。だって、もしもなにかあったら、嫌じゃん!?
実際、カラ松の時危なかったじゃん!?あんなに酔っ払ってさ、どっかのくそ野郎に襲われたら大変じゃん!?


あの日、電車で君に久しぶりに触れた。誰もいない車内で、一度だけ君にキスをしたことは俺しか知らないこと。


「なまえちゃん、好きだよ。」


好きで、好きすぎて、このまま誰もいないどこかに君のこと連れ去ってしまいたいくらい。


……でも、一松の時だけは途中で見失って、たぶん、あいつは俺が付いてきてるって気がついていたんだろうな。目を離した隙に一松に一本取られてた。あいつが何を考えてるのかはやっぱりわからない。

ここまで来ちゃうと、なまえちゃんの恋人が俺だと言いだすタイミングも完全に失ってしまった。









「…なまえちゃん、」

「あれ、おそ松くん。」


コンビニの袋を持つ俺が帰ると、玄関には君がいた。
彼女がこの家に来るってことは、一松に会いに来たってことで、一松は猫の集会だとかで今はちょうど外に出てしまっている。
俺の彼女なのに、俺のじゃない。なにこれ、なんで、こんなもやもやしなきゃいけないんだって、全部自分で蒔いた種だ。


「一松なら当分、帰ってこないよ?」

「う、うん。」


君は伏し目がちで、俺と目も合わせてくれない。今までは、俺のこといつも見上げてて、可愛い笑顔向けてくれて、好きって言ってくれて、あの日々が全部本当に嘘になってしまう気がした。


「お、おそ松、くん!?」

「ごめん、少しだけ俺のこと慰めて、」


あー手順ってものがあるのに、わかってはいるのに
制御の利かない気持ちに動かされて、君の腕を強引に引っ張って、そのまま思いっきり抱きしめてた。


この温もりも久しぶりで、離したくなくなる。

好きだよ。って、今この場で言ってもいいかな。