「…俺、松野おそ松!」

「……………。」

「どう?似てるでしょ?」

「うん、」


動物園デートを終えて、もうしばらく一松くんと一緒にいることにした。なぜかといえば、帰り際の彼の発言のせいだ。
おそ松くんのふりをしていたのは…一松くんだと。本人の口から確かにそう聞いた。
証拠として、彼の真似をしてくれて、確かになかなか似ている。



「まー僕、人の真似するの得意だから。」

悪びれた様子もない。カチッとプルタブを開ける音が鳴って、一松くんは自販機で買ったコーラをごくごく飲み始めた。


「…なんで、私と付き合ってくれたの?」

「うーん、ただの気まぐれ。」

「そっか、」


あの日々は全部全部偽物だったのだろうか。すごく好きで好きで仕方なくて、あんなに一人の人を想ったのは初めてで、勝手にこれが人生で最後の恋だなんて自惚れていた。運命だと思ってた。
ぼろぼろ涙が溢れてくる。だって、失恋したようなものだった。


「…泣かないでよ。」

「ごめん、」

「でも、僕はちゃんと、なまえちゃんが好きだから、」

「え、」

「だから、これからは松野一松を見てよ。」


私のことをじっと見つめるのは、少し眠たそうな目。でも、一松くんからは『彼』の面影は全く感じられない。


思わず釣られてしまう彼のきらきらの笑顔が好きだった。どんなことにも屈しない真っ直ぐなところも、純粋なところも。
意地悪なところも。ちょっとお金遣いが荒いとこも、ギャンブル好きなところも。嫌いなところも全部全部含めて大好きでした。






私は一体、誰に恋していたんだろう。



「…私は、」




私は一松くんのことが好きなのだろうか。




-------------人の心は簡単に言葉で偽ることができる。言葉に惑わされないことが一番大切だと俺は思う。


カラ松くんの言葉を、私はなんで今、思い出してしまったのだろうか。

大好きな人が誰なのかわからなくなった。
見た目はみんな一緒だから、私は散々悩んで、探しまわった。
でも何度迷子になっても、騙されても、悩んでも、私の行き着く先は決まっていた。どれだけ繰り返しても、私が帰りたい場所は一つだけだった。


どうして、最初から気づいてあげられなかったんだろう。


嘘つき。でも大好きは変わらない。