「だるい。」

「付き合ってもらって、ごめんね。」

「…別にいいけど。」


もしかして、一松くんは一番接するのが難しいかもしれない。駅で待ち合わせして、動物園に向かってる途中から私たちはなんだか気まずい。たぶん、それは私だけなのだろうけども。
彼はバスの中からずっと外を眺めているだけ。一松くんの機嫌を損ねそうな気がして、言葉をかけることすら躊躇してしまった。

動物園に着いても、一松くんの表情は変わらない。


「で、どーする?」

「あの、行きたいところがあるの。」


そういえば、彼とこの動物園に来た時、真っ先に向かったのは、触れ合いコーナーだった。猫と戯れる彼の姿は無邪気な子供みたいで、見ているだけでこっちも楽しくなってしまう。6つ子だけども、人を巻き込んで幸せにしてしまうのは、きっとたった1人だけの特権なのだろう。


「どうも、初めまして。」

一匹の真白い猫がこちらへとやってきて、一松くんに撫でられている。猫に挨拶する一松くんはさすが、猫の友達がいるだけあって、他の人よりも丁寧だ。

やっと一松くんは薄くだけど笑ってくれた。


「猫、好きなんだよね!」

「うん。」

「かわいいよね。」

「でも、僕は野良猫の方が好き。」

「どうして?」


動物って飼うものじゃないと思うと、猫って飼われるよりも野良の方が自由だからって、彼はぼそぼそ呟いた。

一松くんの腕の中にいる猫ちゃんは、すやすや眠っている。


あの日、彼に抱かれていたグレーの猫は幸せそうにみえたけど、それはエゴなのかもしれない。
人それぞれ考え方があって、彼だったらなんていうだろうか。「人間も猫も同じ動物なんだからさっ、愛情たくさん注いでやればいいんだよ。」なんて斜め上の発想でくるかもしれない。うん、きっとそうだ。いつだって、あの人は私の予想を上まわる回答をする人だったから。


「……次、あそこ行きたい。」

「いいよ!」


少しは心を開いてくれたのか、一松くんは徐々に口数が増えた気がする。
鳥類に、虎に、象に、麒麟に…猿。多種類の動物を見て、一通り回り終えた頃にはもう日が暮れ始めてきた。今日のデートはここまでになりそう。











「今日はありがとうございました!」

「別に。」



バスを降りて、別々の電車で帰る私たちはここで解散だ。
きっと一松くんは私の恋人じゃない。嫌々ながらも付き合ってくれたのだと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。それは、一松くんだけじゃなくて、他の兄弟に対してももちろん同じ気持ち。

だけど、一松くんはじっと私を見つめてきて、立ったままで動こうとしない。彼の意図がわからず、私は首を傾げた。



「ねえ、」

「どうしたの?」

「まだ、気がつかない?」

「?」


一松くんは呆れたようにため息をつく。その意味もわからない。私がなにかしてしまったのかと少しの不安に包まれた。










「…僕がおそ松兄さんのふりをしていたんだよ。なまえちゃん、」


一松くんが、私の恋人…………?