「あれれーなまえちゃん、なにしてるのー?今日はデートの日じゃないよね?」
「おそ松くん、」
私が6つ子を分けるのは、洋服の色だ。それはおそ松くんに教えてもらった。戦隊もののヒーローを意識しているのか、似たようにそれぞれトレード色があるの。目の前にいるおそ松くんは赤で、赤色のツナギに、長袖のTシャツとラフな格好をしていた。
「…なんか、家にいるのが落ち着かなくて、」
「それで、この街まで来ちゃったの?」
「うん、」
おそ松くんはおそ松くんで、私の知ってるおそ松くんじゃなくて、わかってるんだけども、やっぱり、私の脳はついていけてない。
この前、私は彼に会ったような気がする。酔っていたせいで、夢なのか現実なのか曖昧だけども、電車で隣に座っていたのは、きっと彼だった。それから、私をおぶって自宅まで送ってくれたのも。
「んーせっかくだから、どっか寄ってくー?」
「いいの?」
「元気ない女の子が目の前にいるのに、ほっとけないよ。」
にっと歯を出して笑うおそ松くんに不覚にもときめいてしまう。本当におそ松くんは、私の知らないひと、なのだろうか。
彼に連れられてきたのは、近くのファーストフード店。私のお気に入りのいちごアイスが限定発売されている時期なのだけど、おそ松くんは私より先にそれを頼んでいた。
「おそ松くんも、それ、好きなの?」
「好きー!なんか、無性に食べたくなってさ。なまえちゃんもこれにする?」
「う、うん。」
「あと、俺はポテトも食べたいなー。」と迷っている彼に注文はお任せして、私は只々にこにこしてるおそ松くんのことをじっと見つめる。
私と彼は、割と趣味が合う。好きな食べ物は特に同じようなものを好むから一つ買って2人でよく分けっこしていた。コンビニ限定メニューには目がなくて、2人で食べ歩きしたこともはっきり覚えてる。
だから勝手に運命感じてしまうの。
「で、弟たちとデートしてみてどうだったの?」
席について、おそ松くんと向き合ってるだけでも、ぴんと背筋を伸ばし、緊張する。彼の問いかけに私は思ったことをそのまま言葉にした。
私を気遣ってくれるし、いい人だなと思う。だけど、みんなそれ以上の感情は抱けなくて、あとデートしてみてわかったことは同じ顔だけど、それぞれに個性があること。なんとなく区別がつくようになってきたこと。私の好きな彼とは違うこと。
だから、余計に思ってしまう。私の彼氏は、やっぱり、今、目の前にいる貴方ではないかって、根拠も自信もないけども、私の心がそう言ってる。
「それじゃ、一松か十四松のどっちかってことか〜なんか意外な2人が残ったね〜。」
「………おそ松くんは?」
「え?」
勝手に溢れてしまった。賺さず「な、なんでもない!これ、美味しいね!」と、もぐもぐと口を動かすスピードを速める。溶けていく甘酸っぱい味は、今の私の心とリンクするみたいだった。
聞けるわけがない。もしも、おそ松くんだったとして、どうして私を騙すのかがわからない。
心の準備も出来ていないのに、真実を聞く勇気はなかった。
「あ、もちろん俺ともデートしてね!めっちゃくちゃ楽しみにしてるからっ!」
「うん、私も楽しみだよ。」
……俺が一番好きって、君が迷いなく言ってくれることが、俺の望みだったから。
騙して、ごめんね。