公開ストーカー | ナノ

 5回目

風邪をひいた。たぶん、日頃の疲れが一気に身体に来たのだと予測される。原因…うん、原因はぼぼ8割方わかってるよね。私の安眠と平和を揺るがすのは1人しかいないよね。

がさがさとした音が耳に入ってくるし、なんだか、重い。目を開ければ、目の前に一松くんの顔があって、しかもキス顔をしていた。


「………死ね!!!」

「うっ!」

馬乗りしている彼のお腹に思いっきり蹴りをいれる。お腹を抑えてにやにやしながら悶えてるから、一松くんの大事なところ狙った方がよかったかな??


「あのさーなまえ、いい加減、僕に風邪移してよ。」

「それより寝かせろっ!」


これでのこのくだり、実に3回目。昨日から寝込んでいる私なのだけども、明日から仕事だから意地でも直さなきゃいけないのに!この気持ち、ニートにはきっと理解できないでしょうね!
というか、ストーカーなんでやってないで、いい加減、働けよ!


「…僕に移せば一件落着でしょ。というか、たとえ風邪菌だろうと僕以外がなまえを犯すとか許さないんだけど、」

「君に犯されたことありませんけど!」

「そんなこと言ってさーキスした仲じゃん。」


いやいや、あれ、ただの事故だったじゃん!なんて、ツッコミする体力もないし、なんだか、頭がくらくらする。あー怒鳴ったせいで、熱上がったかも。眠い、寝たい…身体がもう限界だと悲鳴をあげている。
にやにやしてる一松くんの相手はこれ以上していられないからと、布団を頭から被って、彼のことを完全シカトした。正直、これでもやつのことだから、なにかしらアクションをしかけてくると踏んでいたのだけども…しばらくすると完璧に人の気配が消えた。

そっと、布団から顔を出して室内を確認すると、さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返っている。もしかして、彼は帰ったのだろうか。


「……一松くん……?」


ついさっきまで帰れと願っていたのは私の方だ。なのに、病気になるとどうしても1人は心細くて、思わず彼の名前を呟いてしまったことが悔しい。ストーカーに甘えるとかおかしいし、意味わからないんだけど。全部全部、きっと熱のせいだ。
せっかくうるさいのがいなくなったのだから、今日はこのまま眠り続けよう。こんなチャンス、滅多にないし。


くるり、寝返りを打ち、反対側に身体を向けると目の前には人の顔。


「うわぁぁあっ!」

「い、痛いっ!でも幸せっ!!」


まさか隣にいるとは思わなくて、反射的に彼のほっぺたを引っ叩いてしまった。さすがにごめんって謝る。というか、帰ったんじゃなかったの!?
いやでも、不意打ちをする一松くんがいけないし、この時折存在感消すの本当に心臓に悪いからやめてほしい。


「なんで、まだいるの!?」

「なんでって、なまえのこと1人にするわけないじゃん。」


ぎゅっと抱きしめられて、私は身動きが取れなくなる。紫のパーカーの松のマークが目の前にあって、いつもだったら絶対抵抗するのに、今日はだめだった。もう諦めよう。


重くなってく瞼には勝てなくて、私は目を閉じた。



「僕は、なまえのそばにずっといるよ。」