公開ストーカー | ナノ

 3回目

「ねえ、一松くん、なんでここにいるのかなー?」

「え、なまえのストーカーだからに決まってるじゃん。」


小声で喋る私とは逆にわざと声を張る一松くんの口を塞ぐ。


本日、私は合コンとやらにきたのだけども、ひとつ前の席にとてもとても見覚えのある顔があって、それは今朝も私の部屋にいた変態だ。
大手企業の方々との合コン…めったにないチャンス。もちろん服も髪も気合いを入れてきたのに、集中なんてできるはずもなかった。


「終わるまで、おとなしくしててくれるかな?」

「どうして?」

「彼氏いない歴イコール年齢の私の人生かかってんだよこんちくしょー!」

「ふーん、なまえって彼氏いたことないんだ。へ〜」


どこから出したのか、小さなノート型のメモ帳になにやら書き込んでいる。そのタイトルは「なまえ観察記録帳」もうやだ、このストーカー。

にやりにやりと笑う一松くんに寒気しか感じないし、彼がこのまま大人しく座ってることは100%ないと断言しようか。
一抹の不安は抱えるものの元の席に戻る。様子を伺うと、一松くんはお酒を嗜み始めたから、しばらくは問題ないだろう。

ため息つく私の隣にいるイケメンは「どうかした?」と心配そうに、それから控えめに顔を覗き込んできた。
恋愛マニュアルは読破してきた…だけど、イケメンのそばは落ち着かないし、恋愛未経験の私は緊張のあまり手元が狂い、使っていた箸を床に落として、それを拾うためにテーブルの下に潜り込む。



狙ったかのようなタイミングだった。

「……こんばんわー。松野一松、なまえのストーカーです。まあ、いずれはなまえの恋人になる予定だけど。我慢ならないから出てきちゃったよねー。ヤリチン野郎にはここで死んでもらうから。恋人いる人間がこんなところ来てるのっておかしいと思うけど。現代はネットの時代だからね、検索すればごろごろ写真出てくるよね。
これって合コンじゃないの?なまえのこと騙そうなんて、この僕が地獄に落としてあげようか?」


その声に絶望しか感じない。やりやがった、あいつ。恐る恐る顔をあげて一番最初に目に付いたのは、彼の格好だった。

…お前いつ着替えたんだよ!なぜか一松くんの大事なところだけちょうどいい形の葉っぱで隠されており、全裸に近い姿を目の当たりにして、私以外全員青ざめている。
「やった、やった、」の掛け声が聞こえてきそうで、一松くんは踊りだした。
これは…小学生のころ流行っていたやつだ。葉っ○隊で検索するとすぐにヒットするよ。てゆーか、このネタわかる人いるのかな…20代にしかわからないんじゃない?懐かしいけど、懐かしんでる場合じゃない!


「あ、これよりも、“安心してください。履いてますよ。”の方がよかった?」

「そういう問題じゃないからっ!!いいから、服を着ろっ!!!」


脱ぎ捨ててあった紫のパーカーを投げつける。最悪だ最悪だ…。
「え、なに、あの子、なまえの知り合いなの?」なんて、ドン引きする面々に向かって、いまさら言い訳は通用しないだろう。これは、もう2度と合コンに呼ばれることはない。

………ああ、終わった、私の恋活。