▼ 1回目
もぞもぞ、何かが動く音で私は目を覚ました。今何時?と、壁にかかる時計に目をやればまだ朝の5時だ。休日の朝くらいゆっくり寝たいのはみんな同じだろう。体制を変えようと身体を動かすと、隣に誰かが寝ていることに気がついた。
「ぎゃぁぁぁって一松くんっ!!」
「落ち着いてよ、なまえ。」
無表情のまま、「寒いから布団剥がないで。」と再びすやすやと眠りに着こうとする男の子がひとり。
…まず、整理させて欲しい。駅から徒歩4分、家賃4万円のそこそこ綺麗なアパートに住む私は一人暮らしだ。もちろん、昨晩、他人を泊めた覚えはない。なのに、一松くんは当たり前のように私の布団にいた。警察を呼ぶべきだって? いや、今に始まった事ではないのだけども。
「自分の家に帰りなよ、」
「なまえに何かあったら、死んでも死に切れない。」
「別に大丈夫だから、」
「どこに根拠があるわけ?現に、この僕に簡単に家に入られてるじゃん。窓の鍵、ちゃんとかかってなかった。まあ、僕はこの前拝借した鍵で合鍵作ったから正面突破してきたけど、もし僕じゃなかったらなまえ泣かされていたよね?なまえのストーカーはこの僕だけで十分。」
私は呆れを通り越して、もはや溜息しか出ない。いつのまに合鍵作りやがったんだよ…。そういえば、一回だけ鍵落としたことがあったけど、まさかその時か…。
「僕がなまえを守りたから…」とかそんなくさい台詞初めて言われたけど、ストーカーとなってしまうと話は別だ。
そう、彼は自らのストーカーを公表してる謎の青年。いや、謎でもないのだけど、彼には六子の兄弟がいて、その中の長男と私は友達。おそ松くんに用事があって、会いに行ったところ、四男の一松くんに目をつけられてしまった。なにがどうしてストーカーをするまでに発展したのかはよくわからない。
おそ松くんに相談したけど、「あいつ童貞だし、強姦とかする勇気ないから、添い寝くらいなら付き合ってやってよ。」と笑っていた。兄弟揃ってくずだな、おい。不法侵入だよ、これ犯罪ですから!
「あのさ、なまえのパンツ借りていってもいい?…オナニーするのに、必要で、」
「オカズにするのやめてもらえますか?」
もじもじと照れくさそうに何を言い出すかといえば…でも。なんとなく想像はできた私はだいぶ耐性ついてしまった。ストーカーに慣れてなんの得があるのだろうか…。
残念ながら人様に貸せる下着はありませんし、貸したくもありません。「しかたない、じゃあ、盗んでいくね。」ってそれ窃盗罪!犯罪だから!一回くらい本物の警察のお世話になった方がいいのかな、このバカは…懲らしめなきゃわからないのかな??
するりと布団を抜けて、箪笥を荒らし始めるストーカーを追いかけ、ぷにぷにのほっぺを思いっきりつねる。柔らかいほっぺはのびるのびる。この変態ストーカーめ!女の敵は成敗してやる!
ひりひりと真っ赤に染まるほっぺた。痛めつけたはずなのに、にやにやと嬉しそうに笑うと一松くんはとても気色悪い。
「なまえにつねられるとか、至福のひと時…今なら死んでもいい。もう一回して」
なぜか「神様ありがとうございます。」と拝み始めた一松くんの言動は私には理解できないものばかりで、ツッコミするのも疲れてしまった。