▼ 14回目
「……僕は、なまえが好きだよ。」
「私もだよ。私も一松くんが好き。」
やっと素直に言えた気持ち。ずっと言いたかった。真っ直ぐに一松くんの顔を見つめて、引き合うみたいに二人は近づいて、唇が重なる。
ピピピピピと、突然、鳴り出した瞬間に、あたりは真っ暗に染まった。
手を伸ばして、音の元である目覚まし時計を、叩くように止める。
「は!?」
夢!?今のは夢!?なんつー夢みてるの私!?別に苦手なホラー系でないはずなのに、とんでもない悪夢を見てしまったために、汗だくな自分がいる。
「…なまえ起きたの?早くない?」
「うわぁぁぁっ!??」
横から一松くんの声が聞こえてきて、別によくあることなのに、過剰に反応してしまったのは意識してるからなのか。いや、あんな夢見たら意識しちゃうに決まってるじゃん!?
ばくばくと心臓がうるさい。落ち着け、落ち着け落ち着け!
「なまえ、顔真っ赤だし、熱でもあるんじゃないの?」
「だ、大丈夫っ!!」
こいつ、寝る前は居なかったはずなのに、いつ来やがったんだ。昨夜は一松くんの姿はなくて、本当はちょっと寂しかった気もしなくもなくて、早めに寝ようと思って安眠してた。まあ、安眠にはならなかったけど。というか、寂しいって何?!意味わかんないし。
「ねえ、もう少しだけ、なまえの体温感じて眠りたい…」
「気色悪いこと言わないの!」
掴んでくる手を振りほどいて、布団から飛び起きて、洗面台へと向かう。顔を洗って、ようやく熱が冷めた気がした。
仕事の休憩中に職場のパソコンをお借りして検索したワード。それは「告白される夢」「気になる人」ググってみれば、そこに書かれていた文章に目を瞑りたくなった。
好きな人から告白される夢は、自分自身の望んでること。いや、好きじゃないし、気になるだけだしと言い聞かせたところで、無意味なのはわかってる。
「はぁ、」
私はデスクに頭を突っ伏して、何度もため息を漏らした。これはもう観念するしかないのかなぁ。
きっと、いつの間にか一松くんのこと好きになってたんだよな。あんな変態で、ストーカー野郎で、ニートで、人間のクズみたいなのを好きになるとか、私はどうかしている。
でも、風邪ひいた私のそばにいてくれたこととか、変質者から私を守ってくれたこととか、いいとこもあるって知ってる。
でもでも、やっぱり何が好きなのかよくわからないし。人を好きになるってそんなものなのかな?
恋愛経験0の私には、未知の世界だよこれ。
残業したところで今日は集中なんてできないから早めに切り上げて帰宅することにした。
あーもう!モヤモヤしたところで何の解決にもならないし!こういう日はビール飲もう!飲んだくれよう!考えたとこで答えなんてでないもん。
会社を出れば、見覚えのある紫のパーカーが目に入って、それが誰なのかすぐにわかってしまった。この気持ちを抱えたまま、まともに話せる自信がないのに、なんでこいつはここにいるのだろうか。なんだか、悩んでた自分がバカらしく思える。
「なにしてるの、一松くん…。」
「やっと来たね。もう9時間くらいなまえのこと待ってる。」
「はぁ!?」
いや、それって、私が会社にいた時間なんですけど!?なにしてんのこの変態。でも、不思議と許せてしまうのは、それは私が認めてしまったから?
「だって、なまえ、今日元気なかったから。」
「そんなことないよ、」
「僕が面白いことして、笑わせてあげるよ。」
なにを企んでるのか、にやりと笑う一松くんのほっぺをつねってやった。
本当は嬉しくて思ってしまったの。絶対に口には出さないけれども。いつもいつも一松くんがそばにいて、私を怒らせるのも笑わせるのも全部全部一松くんだけだよ。あ、こいつといて悲しいって感情は今までなかったかも。
こいつは私より私のこと見てるのかもしれないなぁ。
「……脱ぐのは禁止だからね。」
「え、」