公開ストーカー | ナノ

 13回目

………私は人生最大の失態を犯してしまいました。



私はなんで、一松くんと同じベットで寝ているのでしょうか?それも下着姿で。


目を覚ましたのは数分前。視界に入ってきた天井の色がなぜか奇抜な紫色をしていて、そこが自宅ではないことはすぐに理解できた。

辺りを見渡せば、この空間には天蓋の付いているダブルベットが一つで、目の前にはガラス張りのスケスケのお風呂らしきものがある。ここはもしかして、ラブホと略されるラブ専用ホテルではないだろうか。
いやいや、でも、なんでこんなところに?というか私、なんで下着姿なんだろう。いやいやいや、ちょっと待って。ちょっとたんま。

は?


落ち着くために、深呼吸しようと思ったけど、隣にいたぼさぼさ頭が寝返りを打って、ついでに暑いのか布団を剥いことにより、私は青ざめる。


「なんで、一松くんまで服着てないの!?」


一松くんが隣で寝ているのはわりとよくあることなのだけども、全裸ではなかった。

なにコレ?もしかして、このクソ男とそういうことしちゃったの!?でも、痛くないし。だって、私、処女ですし。童貞バカにしてるけど、彼氏いたことありませんし、私もそういう経験ありませんから!





……昨日は2人で映画にいった。そのあと、ぶらぶらして、帰る前に居酒屋に飲みにいったっけ?なんか普通にデートと呼ばれる感じだった気がしなくもなくて、でも、そんな飲みすぎた記憶ないんだけど…ずきずきと頭が痛いような感じもする。

……もしも、もしも仮に一松くんとセックスとやらをしてしまったとして、もう起きたことはしょうがない。

いや、いや、しょうがなくなーい!

酔った勢いでヤッちゃうとかどこのビッチだよ私!こういうのは大好きな人と、いい感じのムードの時にするものだから…なんてこの前読んだラブラブの少女漫画が頭に浮かんだ。



「そうだ、」


いっそ、なかったことにすればいいのだ。そうだよ、私はこんなところに来てはない。一松くんが勝手に1人で来ちゃっただけ。私はなにも知らないし、なにも見てない。

散らかる洋服をかき集めて、まずは上着から袖を通す。


「なまえ……、」


聞こえてきた声にびくりと肩は揺れて、恐る恐る確認してみるけど、一松くんは口を開けて寝ていた。どうやら、ただの寝言だったみたい。夢の中でも私が出てきてるのかよ、なんなのこのストーカー。

「どんだけ、私のこと好きなんですか…」なんて言葉にしたら気恥ずかしくなった。




「……よし、」



装備は完璧だし、忘れ物もない。準備はすべて完了した。今すぐここから逃げよう。一松くんが起きた時に、恥ずかしすぎてどんな顔すればいいのかわからない。すでに耳まで真っ赤の私は、私の中の感情はただそれだけだった。













「ねえ、どこいくのなまえ?」


あれ、デジャブゥ?前にも、こんなことありましたよね。

扉に手をかけたところで、そいつは私の名前を呼んだ。さっきまですやすや寝ていたのに、一松くんの中にはなにか、センサーでも搭載されているのでしょうか?
真後ろまできた一松くんが柄にもなく壁ドンをしてきたから、どきりと胸の鼓動が大きくなる。じりじりと背中が焼かれるみたいに熱い。


「……いや、えっと、」

「逃げるつもり?昨日はあんなに僕のこと求めたくせに、」

「やっ、やっぱり、」

「なまえ、かわいかったよ、」



にやりと口角を上げて、意味深なことを吐く一松くんに、私はもはや泣きそうだった。

相手に不満があるとかそんなんじゃなくて、こんなだらしない展開になってしまったのが嫌で、だって、一松くんだからこそ余計そう思ってしまって、なんでそんな風に思っちゃうんだろう私。ここ数日、おかしいよ私。これじゃ、まるで、私が一松くんのこと…









「……帰りたくないってさ、なまえが路上で暴れるからさ。僕とそんなに一緒に居たかったの?
でも、そんななまえもかわいいよ、僕はどんななまえもかわいいって思っちゃうし。
それで、とりあえず、ここに来たんだけど、なまえ服脱いでそのまま寝ちゃうし。」

「え、」


たぶん、一松くんは嘘をついていない。そう言われると、そんなことがあった気がすると記憶が戻ってくる。
酔っ払うなまえかわいすぎてって頬を赤らめる一松くんのほっぺたを無性に抓りたくなってしまった。いつもよりも強く強く。これ、完全に八つ当たりですから。





「じゃ、じゃあ、あの、男と女がぱこぱこする行為はしてない?」

「なにそれ、セックスのこと?寝てるなまえのこと襲うとかそんなことしないし。」

「じゃあ、なんで一松くんまで服脱いでるの?」

「そんなの弱ってるなまえのこと鑑賞しながら、抜いてたからに決まってるじゃん。」



むぎいいって伸びるほっぺたを何回も何回も抓る。さすがに痛いって声が聞こえてきて、仕方ないから離してあげた。

なにこの茶番。全部、自分のせいじゃん。このまま消えてしまいたい衝動にかられる。

確かにお酒は強くないけど、でも、今まで潰れたことなんてなかった。どちらかといえばガードは硬い方だって思ってたのに。油断してしまったのは、きっと一松くんの前だとなにも気を張る必要がないから。

果たしてそれは、いいことなのか悪いことなのか。



「まだ時間あるし、その………セックスして帰る?」

「しません!!!!バカ!!!」