公開ストーカー | ナノ

 12回目

「え、」

「……だーかーら、その、次の日曜日空けといてよね!」

「え、え、」


いや、これは友達が行けなくなっちゃったからで、別に一松くんと行くために買ったわけじゃないけど、映画の前売り券が二枚余ってる。今回はDVDじゃなくて、映画館。
身体は子供、頭脳は大人な超有名探偵アニメの映画だから、きっと、一松くんも知ってると思うし。だって、私、そんなに友達いないし、おそ松くんでもいいかなと思ったけど、まぁ、ちょうど目の前に一松くんが居るし。
ほんと、ただそれだけ、だから、顔真っ赤にするのやめてくれないかな?
こっちまで移りそうなんですけどっ!



「……そ、それって、デートじゃん。」

「違うし!ストーカーと映画見に行くだけだし!」


あ、自分でも何言ってるのかわからなくなってきた。1人映画なんてしたことないから、とにかく、来週の日曜は付き合ってもらいますから!

答えはもちろん「行きたい。」だったから、ほっとしてる私がいる。あれ、なんでほっとしてるの私。
こ、これはきっとチケット無駄にならなくてよかったていう安堵!

でも、楽しみで、ちょっとだけ口元が緩んだのもまた事実。







「おはよう、なまえ。」

「一松く…は?」


そして、やってきた日曜。

目の前にやってきた彼は、人違いかな?と疑ってしまうほど別人だった。

ていうか、何その格好?!髪型はとんがりコーンみたいで、色はピンク。紫色のジャケットにパンツ。どこのミュージシャンですか!?私、こんな人の隣歩きたくないんですけど!
とりあえず、お着替えしに一回お家に帰りましょうか?って笑顔で迫れば、一松くんは頬を赤く染めた。なんで、照れてるの?!


「なまえがそんなにいつもの僕が好きっていうなら、しょうがないから着替えてくる。」


「そんなこと一言も言ってませんけど!?」


ねえ待ち合わせの時点で、もうツッコミ疲れたんだけど、私!?
でも、ため息が出るものの、許せてしまうのは、一松くんだからなのか。


「なまえはそれ、デート服なの?」

「そんなんじゃないし!」

「…かわいい。」


白いヒラヒラとか、僕のこと誘ってる?なんて、にやにやしてる変態のほっぺたを引っ叩いてやった。
私はもともとこういう系統なんです!普段は仕事だから適当なんです。まあ、かわいいと言われて、嫌な気はしないけども。本当はお気に入りの洋服着てきたとか、絶対に口には出さないから。



………気を取り直して、隣には見慣れた紫パーカーにぼさぼさ頭の一松くん。

ポップコーンと飲み物を手にして、指定席に座る。場所は首が痛くならないちょうどいいところ。
周りを見渡せば、男女二組の姿もちらほらあって、雰囲気から恋人同士なのだとわかった。

あ、これって、もしかして、私たちもそう見えてしまってるんじゃないかな…。

いやいやいや、目の前で、抱き合って熱いキスしてるカップルと同じとかないない!ありえない!ていうか、家でやってよ!


横にいるストーカーにとんとんと肩を叩かれたから何かと思えば、手を広げて、キス顔してた。


「…なまえのことならいつでも受け止めるよ?ほら、遠慮しないで。」


イラっとするものの、なんで恥ずかしがってんの私!?「受け止めなくていいわ!」って、今度はいつもの様にほっぺを抓ってやった。
嬉しそうにする一松くんもいつものことで、私は呆れた後にだけど、薄く微笑む。痛めつけて楽しいとか、ドSとか別にそういうわけじゃないからね!一松くん構うのが、楽しいのはこの前認めたことだし。ペット構うみたいなそんな感じだからね!


「……僕ね、今日のためにこのアニメの800話ほどと、映画19本全部視聴して復習しといたんだよね、実は。」

「へ、へえ…」


さすがは自由の身のニート様。でも、一週間でそれだけの話数みるのは無理な気がするけど…そこは黙っておこう。一松くんだからありえるのかもしれない。もはや、やつはなんでもありの奇行種だし。

でも、それだけ楽しみにしてくれたってことで、それは悔しいけど私も同じだった。


「だってさ、なまえから誘われるなんて、今世でもしかしたら、一度きりかもしれないじゃん。だから、1秒も無駄にしたくない。」



「…………そ、そんなこと、ないかもよ。」


映画の告知が終わって、大きなスクリーンから一瞬音が消える。ぴたりと固まる一松くん。
私は紛らわすみたいに、手元にある飲み物を啜る。


「なまえ、」

「ほら、もう始まるよっ!」

「あ、うん。」


無意識に口走った自分に驚いたけど、それよりも
いつもの一松くんじゃないみたいで、どきどきした……かもしれない。らしくない雰囲気が私たちの間を流れる。


そのあとは、2人ともおとなしく、真剣に大画面を見つめていた。


キャラメルポップコーン、甘いなぁ。