▼ 11回目
途中すれ違った大家さんに軽く会釈したし、まるで彼氏のように堂々と合鍵で彼女の住む部屋の鍵を開ける。
「……なまえは、まだ帰ってきてない。」
まず目に入ったのは脱ぎ捨てられたパジャマが散乱してること。きっと寝坊でもしたんだろうなー。だって、朝やってる洗い物もしてないし、下着だって干しっぱなしだし…慌ててるなまえもきっとかわいい。
今日は残業かな。最近、無理しすぎてないかなって、頭に思い浮かべるのは、もちろんなまえの顔。だって、最近彼女の様子がおかしい。
なんというか、前より僕のことを受け入れてるというか、棘がなくなったというか、ドMとしては刺激が足りなくて寂しい気もするけど。僕にとってなまえに抓られるのはもはやご褒美ってやつだから。あの痛さが忘れられない。
ぽふりとなまえが毎日使ってる布団に倒れ込む。なまえの匂いがする、あーもう、これだけで幸せで死ねる気がする。いや、死なないけど。だって、僕はずっとなまえのそばにいて、なまえのこと守るって決めてるから。
彼女の匂いに包まれて、このまま眠りにつこう…ってなるわけない。下半身はとても素直なので、反応しまくってるし。
「……一発抜きたい…無理。トイレいこ。」
ここのトイレに頻繁にお世話になってることはどうかなまえには内緒にしてほしい。もしも、僕がこの家で自慰行為をしてるとしったら、なまえは間違えなく青ざめるだろうね。
そんな彼女もきっとかわいいのだろうけど。
………なまえに出会ったのは、彼女がおそ松兄さんのことを迎えに来ていたあの日。
おそ松兄さんの後ろから伺うみたいに彼女の姿を眺めた。最初はただ、おそ松兄さんの女友達がどんなのか気になったから。それだけのはずだったのに、「あ、僕、この人のそばにいなきゃ」って天のお告げみたいなのが脳に発信されたんだって言ったらなまえは信じる?
なまえは自分に彼氏が出来ないことを相当悩んでるみたいだった。だってさーこの家、やたら恋愛関係の本ばっかりあるし。モテるテクニックとか、いい女になる方法とか、そんな類の本がいっぱい。結局全部読み切れないで、途中で放置しちゃうのがなまえらしいよね。
でもね、なまえ。かわいすぎるから、モテないってあると思うよ?
なんで、僕が君のストーカーになる道を選んだかって、そんなの、なまえに付きまとってる男がいるのにすぐに気がついたからだ。悔しいけど僕よりも先になまえのかわいさに気づいてた、くそモブ野郎がね。あ、そいつのことはもちろん脅したから、もう二度となまえには近づかないと思う。
君は知らないよね?
だって、僕が全部全部消してしまってるから。ポストに入ってるねちっこいラブレターとかなまえの隠し撮り写真とか僕が全部全部回収してるから。
それから2人目の敵が現れた。なまえの隠し撮り写真がなまえの手に渡ってしまった。でもさ、全部全部僕のせいにしてしまえば、君は怖がらなくて済むでしょう?
僕はおそ松兄さんの弟だし、やつらよりも派手なストーカーになってかき消そうと思った。
「……なまえは、バカだよ。」
僕だってさ、やつらと同じようになまえのこと邪な目で見てるんだよ。なのに、なまえは僕のことを許しすぎてると思うんだ。なまえは優しすぎるよ。だからこそ、心配でしかたない。
かつんかつんと階段を上がる音が外から聞こえてくる。あ、この足音は絶対になまえだ。
今日はクソ松のバスローブを借りてきたから、寝転んで、ワイングラス持って、クソ松と同じようなポーズでなまえのことで迎えようと思う。
「なにしてるの、一松くん。」
「おかえり、なまえ。ご飯にする?風呂にする?それとも僕にする?」
「帰れ、変態!」
ねえ、なまえ。僕だけなまえのそばにいることが許されてるって、僕だけ特別だって、自惚れてもいいかな。