▼ 8.5回目
テーブルに散らかるそれを、一松くんは真剣な眼差しで見つめる。
私の家に、私の隠し撮り写真が届いた。一般的に考えるとストーカーの犯行で、もしかして、一松くん以外にも私のストーカーはいたんじゃないかって。
「あーこれね、僕のなまえ写真集に使うやつ。」
そんな不安を一瞬で消し去るのは彼の言葉。
は?写真集ってなんだよ、それ。
「今、作ってるんだよねーほら、これ。」
にやにやと笑いながら一松くんは、主に私の寝顔ばかり載ってるアルバムを見せびらかしてきた。そういえば、カメラを持参してた日もあったっけと思い出す。こんなことになるなら、あの時に一眼カメラ破壊しておけばよかったと後悔しても遅い。
話を聞くと、どうやらその写真集とやらは1冊ではないようで、取り上げようと手を伸ばせば、「これ、僕の家宝だし」とアルバムを抱え込んで離さないから、代わりに一松くんののほっぺをこれでもかってくらい抓ってやった。
「痛いよ、なまえ。もっとやって。」
なにがもっとやってだよ、このどMが!これじゃお仕置きの意味がないじゃん!
……結局、犯人はこいつだったわけで、一松くんに助けを求めた数十分前の自分を殴りたい。寂しいとか思ってしまった自身が恥ずかしすぎて、もうぜひとも、穴があったら入りたい。だれかショベルカーもってきてよ、いま、ここに深い穴作るからさ。
「でもさ、僕に会いたかったんでしょ?」
「全く思ってませんっ!」
「嘘つき。おそ松兄さんに聞いたし…」
もじもじしながら私を見つめる一松くんを目の前に、殴りたい衝動は同じ顔の別の人間に向かう。…くそ、あの赤パーカーめ、次会った時、絶対に八つ裂きにしやる。 命を惜しむがいい!
「…なまえは素直じゃないね。」
むぎゅっと後ろから抱きつかれるのも慣れてきたはずなのに、少しだけ心臓が早くなる。いやいや、きっと気のせい。ストーカーにどきどきしてるとか、ありえないし!「離してよっ!」と振り解こうにも、男の子の力には敵わなかった。
「無理。この2日間なまえに会えなくて、なまえ欠乏症で死ぬところだったんだよ、僕。補充させてくれなきゃ今ここで死ぬよ。」
なにその病気、そんなんじゃ人間簡単に死にませんから。そもそもをたどれば、全裸で出歩いてた一松くんの自業自得ってやつだから!でも、彼が全裸でなにしてたのかは、ちょっときになるけど。
「ねえ、一松くん、」
「なに?」
「なんか硬いの当たってるんだけど、」
私のちょうどお尻に軽く押し当てられるそれ。すごくすごく嫌な予感がするけども。彼は頬を赤らめて、なおかつ無駄にいい声で「勃っちゃった…。」と呟いた。
ぞわぞわと背中が粟立つ。もうやだ、このくそ童貞!
「僕のこの火照った熱を解放してよなまえ…先っちょ触ってくれるだけでいいからさ。」
「触りません。」
「こんな風になっちゃうの、なまえの前でだけだよ?だから、責任ちゃんととって。」
「近寄るな、この変態!」
やっぱり、これか通常運転だ。
なんかさ、悔しいけど、このバカがそばにいてくれないと、私の調子出ないなぁ、もう。
…大丈夫だよ、なまえ。僕がちゃんと守ってあげるから。