04
どう考えてもこの構図はおかしい。
できてる2人の間に収まる僕。なにこれ、自分でもよくわからないけども、図々しくも僕は真ん中にいて、横に3列で歩いた。たまに後ろからきた自転車の邪魔になってしまう時はおそ松兄さんがその度に端に寄ってくれる。
でも、悪くはない。2人の後ろをついていくよりは全然マシだ。むしろ、リア充の邪魔できて気分は爽快。僕って性格悪いからしょうがない。
「で、どこいくー?」
ノープランなのかよ!そこはおそ松兄さんがばっちりプラン立てるだろう普通。てか立てろよ!もしも自分ならばめんどくさいと口にはするものある程度決める。僕的には成り行きの方が絶対に難易度高いんですけど。まぁ、デートする予定なんて、今後一生ないだろうけど。
「あのね、私ね、一松くんの猫カフェ行きたいな。」
「え?」
「いいんじゃない?そうしよーぜ!」
意外すぎる提案に思わず間抜け顔になってしまう。あれだ、彼女はそんなに猫が好きだったっけ?初めて知る事実。なまえさんの好きなものは割と把握してる。好きな食べ物に音楽、映画、俳優に、小学校からの親友の名前も。好きな動物はうさぎだと思っていたが、猫に書き換えておくか。ってストーカーかよ僕は。
職場を見られるって複雑な気分だけど、彼女が行きたいというならば断る理由はなかった。電車で5分の、駅前のビルの2階にそこはある。僕が店内に入ると店長は快く迎え入れてくれて、おまけしてあげるよと言われた。ここの従業員は裏表のない人ばかりだからこんな僕が長く働き続けられている。とてもありがたい事。
「…へぇーお前ここで働いてるんだなー」
おそ松兄さんは猫には全く興味がないようで、用意してあるお菓子を頬張り、まるでファミレスのドリンクバーのように無料のコーヒー販売機を利用しまくってる。
…恥ずかしいから、帰ってください。
「かわいい!」
「そいつの名前、える。」
「えるちゃん、こんにちは!」
アメリカンショートヘアーのえるは中々人に懐かなくて、お客にも人気はない。猫に順位つけるのはどうかと思うけど、猫の世界にも格差はある。それは人が勝手につけた順位だけども。
なのに、彼女に自らすり寄っていくものだから、正直驚いた。えるはしゃがんだ彼女の足に体を摺り寄せる。なにそれ、羨ましい。
動物に好かれる人は心優しい人だとよく聞くけど、その通りだと思う。あ、待って、それだと僕も優しい人間になる。まあ、あれだ。なまえさんは特別だから。
「…そいつ、顎の下撫でられるのが最高に好きなんだ。」
「わかった!」
僕の言った通りにする彼女に、無条件に心が締め付けられる。苦しいのに、それが心地よくて、M気質なのは確かに認めざるおえないかも。
なまえさんがいるだけで、いつもと違う空間にいるように錯覚する。
「…寝ちゃったね。」
「うん。」
「…………」
「…………」
なにか、なにか言わないと、会話を続けたい一心で考えるものの出てこない。
少しの無言が2人の間に流れて、それから「この子、幸せそう。きっと、一松くんが大事に大事にお世話してるからだね!」だなんて僕のためだけになまえさんは笑顔を向けてくれた。このゴミクズの僕に…。
こうして2人で会話するのは久しぶりな気がする。
子供の頃は無邪気なもので、なにもきっかけがなくてもそばにいることができた。だけど、大人になるに連れて君との距離はどんどん遠いものになってしまって、人と距離を詰める術を知らない僕には、君と2人でいるための理由を作ってこれなかった。
本当は後悔してる。こんなことになってしまうならば、もっと早くから素直になっていればよかったと。
でも、やっぱりなまえさんの隣にいるだけで僕には勿体無い気がして、だけど、幸せで、いつまでもこうしていたいと願った。
時間、止まってくれないかな。