おかやきもちもち | ナノ




02

「……なまえさん、来てたんだ。」
「おはよう、一松くん、十四松くん。」
「オハヨー!なまえちゃんっっ!ダハァァァ!!」


十四松の素振りに付き合うために玄関まで引きずられていたところ、彼女はすでにそこにいた。挨拶は返さずに、「寒いから中入れば?」とそっけない態度をとる。

…違う、こんなことが言いたいんじゃない。

訂正はもちろん効かなくて、ありがとうと柔らかく微笑む彼女は玄関の中へと入ってきた。その小さな鼻は赤く染まっていて、一体どれだけの間を外で待っていたのだろうか。この人はいつまで経っても、律儀なところは変わらない。俺ら六子となまえさんは幼馴染で、もはや家族も同然なのに。それは、少し寂しくもある。


「相変わらず2人とも朝から元気だね!」
「まーねー!!!!素振りは日課でーすからー!!」

僕と対称に、にこにこ笑う十四松に今は救われている。こいつの場の空気を一変させる力は凄いと感心するし、僕には到底真似できない。それに、2人きりじゃなくてよかったと安堵していて、なぜなら平常でいられる自信がないからだった。

なまえさんはなんでここにいるの?と言いかけた直後、背後からもうひとり同じ顔が現れた。

「おそ松くん遅いよ!」
「おーなになに、迎えに来てくれたのっ?!わるいねぇ〜マイハニー」


「………。」


カラ松の真似とかダサすぎ。ケラケラしながら現れた奴とは先ほどまで同じ布団で川の字で寝ていたはずなのだが、こうして2人並ぶ姿を見ると、押さえ込んでいた塊が浮き上がってくる。それにどんな名前がつくのかも自分でよくわかっているし、衝動のまま、おそ松兄さんを殴ったところで解決はしない。

2人の会話を聞いていて、わかったことはどうやらこれから出かけるようだった。なにそれ、デートってやつ?まあ、恋人通り越して、婚約してるし、まあ、そういうのもあるよね。大丈夫、わかってるから。


「ごめん……十四松、僕、ちょっと出かけてくるわ。」
「どーしたの!一松兄さん!??ヤキューは??!」


運動する気分になれなくて、おそ松兄さんとなまえさんの間を割って、わざと通って、そのまま癒しの元へと向かった。
早く遠ざかりたくて、自然と早足になる。こういう時は友達に相談するのが一番だから。

………僕の友達?そんなのお決まりでしょ。

「にゃー」


公園と呼ぶには小さい空き地がこいつとの戯れ場だ。その鳴き声を聞いた瞬間、ぐるぐるに渦を巻いていた黒いものが少し治った気がした。
白い毛並みのもふもふのそいつは俺にすり寄ってくる。いつだって、俺の味方でいてくれるこいつに何度助けられたことだろうか。
できれば、こいつにしてやるように、彼女にももっと優しくできたらいいのにといつも思ってしまう。好きだから、素直になれないとか、どこの小学生だよ。むしろ、「お兄さん」から「おじさん」への階段はもう目の前だ。


「…にゃーん」
「よしよし」
「にゃー」
「…………。」


本当はわかってるんだ。僕はおそ松兄さんのようにきちんと職を持っていないし、ただの猫カフェのアルバイト。同じようにニート生活をしていたはずなのに、いつの間にかついていた格差。それはおそ松兄さんの要領のよさと人柄で築き上げてきたものだ。だから、僕には適わないんだよ。


闇属性のクズでゴミだから、君に釣り合うはずなどない。
わかっていながら、諦めきれないのは、やっぱり僕がどうしようもない人間だからなんだ。



「…一松くん!」

ああ、ついに幻聴まで聞こえてきた。
って、あれ?こちらに向かって走ってくるのは、確かに彼女の姿だった。
僕が見間違える訳無い。


prev next [ 3/15 ]
[ back ]