12
僕は今までも昔も、やる気ないし、友達も全然いないし、生きる価値のない燃えないゴミに変わらない。今のままじゃ出世だって見込めない、君を幸せにできるかもわからない。それなのに結婚ってなにそれ?意味わからない、僕には荷が重すぎる。
それでも、君のこと世界で一番好きなのは、きっとどこ探しても僕しかいないと思うんだよね。たった一つの自信だけじゃだめですか?
「ぜーはー、はー、」
手がかりはなし。「迎いに行け」とおそ松兄さんに言われて、衝動のまま飛び出したけど、彼女の行きそうな場所がわからない。慣れない聞き込みもしたし、大声で彼女の名前も呼びまわった。探し回った。お腹の苦しみに、足がもつれそうで運動不足が長時間走り続けるのは限界がある。
少し休憩と、息を切らしている僕のもとに丸っこい白いのがやってきた。
お前、なんでここにいるんだよ。まあ確かに規模の小さい式の予定で、地元からほとんど離れてはいないけれども。
「なに?」
そいつは僕の周りをくるくると回っている。言葉はわからないけども、長年こいつと過ごしているから、気持ちは通っているつもり。こいつはどうやら、「着いてこい」そう言っている気がした。持つべきは友ってことなのか。
こいつが僕を探しにきたってことで、何となく、彼女の居場所は予想できた。
きっとあの狭い公園だ。
△
「ねえ、なにしてるの、」
「一松くん…」
例のベンチに彼女の姿を見つけた。
純白の花嫁は、ずいぶん歩き回ったのか、そのドレスは薄く汚れている。その瞳は泣きはらしたのか、腫れていた。せっかくしてもらた化粧も落ちてるし、セットしてもらった髪も解けている。それが彼女の抵抗だった。僕はずっと彼女のこと見ていたはずなのに、どうして、気づいてあげられなかったんだろう。まっすぐに見てあげられなかったんだろう。
「みんな、心配してるよ。」
「……うん、ごめんね。今、戻るから、」
そういって君はまた泣き出して、でも、こんなボロボロの姿の君を目の前にして、ようやく僕は君に近づけた。逆送して、回りに回って、迷子になって、やっと、君と向き合えた。
「一松、くん?」
初めて、人を抱きしめたとき感じた暖かさはきっと一生忘れないと思う。
やっぱりまだ少しだけ怖い。裏切られたらとか、君を失ったらとか、未来なんて誰にもわかりやしないのだから、本当は考えるだけ時間の無駄なんだろう。僕の性分だから逃げ出してしまいたい気持ちも少なからず存在してる。
でも、思っていたよりも君の体は小さくて、細くて、きっと僕なんかよりも傷つきやすくて、だから、大事にしてあげないといけない。
「……………あのさ…………好き……。」
「え?」
「………なまえちゃんのことが好き。」
「そうやって名前呼んでくれるの久しぶりだね。」
「そうだっけ?」
物心ついたときから、ずっと。君のことが好きで好きでしかたなかった。いざ言葉にすると照れくさくて、あがり症の僕の顔はきっと真っ赤なことだろう。
「私、ずっと一松くんに嫌われてると思ってた。」なんて言葉に、自分のしてきたことを思い返せば、そう思われていても当然かもしれないと納得した。愛情表現とか僕にできるのかわからないけども、僕は僕なりにこれからは君に優しくしていくと今ここで誓う。
「……俺で、よければ、その、なまえちゃんの人生のパートナーにしてください、」
あ、最後の方、声が裏返ってしまった。「結婚してください。」だなんてストレートなセリフ言えるわけない。まどろっこしいプロポーズになってしまったけども、「喜んで!」と僕の大好きな笑顔で受け入れてくれた君が、やっぱり愛おしくてしかたない。
嫉妬心って結局は愛情の裏返しだよね?
もちみたいに、ねちっこくって、じわじわ焼かれていくあの感覚。僕はいつまでたっても君に対しての愛情だけは、それぐらい弾力があって、しつこいものであるんだろうな。
でも、もう嫉妬はしなくて済むよね?あ、おそ松兄さんと一緒にいると発動しちゃうかもしれない。
でも、そのたびに君が僕のこと「好き」と言ってくれれば、きっと僕はそれだけで幸せで、他のことなんて忘れてしまうんだろうな。
END