おそ松 | ナノ









「え?あいつ、性欲あるよ?
なに、手を出してこないって?
でも、この前もAVみてたけど。」


おそ松くんのこの一言によって、私はさらに自信をなくしてしまった。

AVは勉強のためにネットで無料のを見たことがある。映像に出てくる女の子は胸が大きくて、ウエストがしまってて、脚が長くて、肌がつるつるで、目が大きくて、髪が長くてなのにサラサラで、かわいい子だった。
世の中の男は、そんな完璧な女の子が乱れるのが好きらしい。我を忘れて、大きな声で喘ぐのがいいそうだ。これ、おそ松くんからの知識ね。

私はいざ、そういうことをするときに、映像のように出来るのだろうかと予定もないのに一人、悶々と悩んでしまう。
いや、予定はぜひとも作りたいのだけど、彼氏がどうやらそんな気がなさそうなの。付き合って半年。そろそろ、処女を彼に捧げてもいいも思うだけどな。

ちなみに、その彼氏っていうのが、おそ松くんの弟である一松だ。










「…なまえ、きたよ。」
「お仕事おつかれさま!」

明日は二人とも休みだから、一人暮らしの私の家に仕事終わってそのままお泊りがお決まりのパターン。泊まりは何度もしてる。一緒にごはんたべて、お風呂は別々。その後はだいたいいつもDVD鑑賞か、テレビゲームのインドアばかりの私たち。たまのアウトドアは猫と戯れに公園に行くくらい。



「……ねえ、一松。」
「なに?」
「う、運動しない?」
「は?」


遠回しに言いすぎた。でも、気づいて欲しいんだけど!そんな願いも叶わず、なに言ってんのって目をして、こちらを見つめる。

「だから、その、そろそろ一松と一緒にしたいことがあるから。」

私がそこまで言い切るとさすがに意味を理解したのか、今度は顔を真っ赤にしてみせた。こんな一松初めて見る。普段無表情でなにを考えてるのかわかりにく彼は、実はとてもわかりやすい人だ。


「どどど、どうしたの、と、突然っ」
「ずっと、思ってたもん。」

ずいっと顔を近づければ、彼は答えてくれた。ふわりと唇が重なって、軽く舌が絡まり合う。ディープなのは何回もしてる。気がついたらキスだけで一時間経ってた時はさすがにびっくりした。でも、その後まではまだ一度も進展はない。
徐々に徐々に、一松に押し倒されていく。出来れば、床じゃなくて布団がいいんだけどな。


「……ごめん、まだできない。」


私を見下ろすその瞳は申し訳なさそうに伏し目がちになる。
「それは私に魅力がないから?」と、ずっと悩んでたことを、ついに口に出してしまった。
本当はずっとずっと不安だった。周りの子の話を聞いてると、私たちだけペースが遅くて、焦っていた部分もある。早ければいいものじゃないけども、いい歳して経験がないことにも、どこかコンプレックスを感じていた。他人と比較してしまうのが人の性だ。


「…違う。」
「じゃあ、なんで?」
「それは、」


腕を引かれて、ぽすりと一松の胸に抱かれる。その心臓は驚くほど早く動いていた。
私と一緒だ。半年も一緒にいれば、ある程度慣れが出てくるのだけども、私たちはまだまだこのどきどきに振り回されているの。
ああ、好きだなって気持ちで心が満たされていく。


「俺、そういう経験ないから、その…」
「うん。」
「なまえに痛い思いさせたくないし…だから、ちゃんと知識つけてからしたいし、大事だから、簡単にはいかないし…でも、俺、初めてはなまえがいいから、」
「うん…」


耳まで真っ赤で、早口になる一松の姿を見ていたら、不安なんてどっかにいってしまった。
それと引き換えに、どれだけ愛されてるのか改めて感じる。私たちは世間の恋人たちのようにどちらかが引っ張る恋愛じゃなくて、こうやって二人で考えて、結論を出して、好きなことして、お互いを尊重して進んでいくのが合っているのだ。


「もう少し待ってて欲しい…」
「いいよ、私も一松としか考えられないもん。」



心の蟠りが消えたら、すっと自然と眠気がこみ上げてきた。そろそろ寝ようかと先に一松が布団に入って、その後に招かれる私が彼の横に収まる。
少しでも近くに居たいから、一松のこと感じていたいから、心はいつも同じところにあるから。


だから、今日もくっついて眠ろう。
幸せに浸りながら、私は夢の世界へと瞼を閉じた。