「……なーに拗ねてんのー?」 「べーつーにー!」 たまたま見てしまったのは、おそ松くんがラブレターを渡されていたこと。モテたいと豪語してる割には、意外と女の子に追いかけられてる彼を見かけるたびに、私は焦燥感に駆られる。だからと言って長年患い続けてる気持ちを暴露するわけでもなく、私といえば、ただ、彼の隣にいるだけだった。 「ねーなまえちゃーん?」 「つ、ついてこないでよ!」 なんでもないように私は帰宅するため歩速を進めるけど、おそ松くんはジーンズのポケットに手を突っ込んで、飄々としたまま追いかけてくる。 「もー本当はさぁ嬉しいだろぉ?」 「嬉しくない!」 なんで、彼がモテるのかも大体わかってるし。 だって、昔から面倒見がいいし、クラスのムードメーカーで、誰からも愛されてて、彼の周りにはいつも笑顔が溢れている。中身はただのクズなのに、わかってるのに、カッコよく見えてしまうのは、私が恋とやらをしているせいなのかな。 あっというまに自宅の目の前まで着いてしまって、いつもならおそ松くんは飽きたのかそのまま帰ってしまう。 本当はもっと長く居たいのに、繋ぎ止めておきたいのに、まさか自分から「うち寄っていけば?」とか、気の利いたセリフは言えやしない。 こんなとき、素直に言えれば可愛い女の子でいられるのに、天邪鬼な自分にため息が出そうだ。きっと、おそ松くんの好きなタイプとは、私は正反対なのだろうなあって考えるたびに胸が痛くなる。 かしゃん、 手にした鍵が、部屋の施錠には使われずそのまま真下へと落下したのは、いきなりおそ松くんが抱きしめてきたからで。何が起こったのかわからなくて、後ろにいる彼が今どんな表情してるのかとかよりも、突然の出来事に私の心臓の音は煩くなってる。 「……お前、いっつも耳真っ赤にしてさぁ〜ほんと、かわいいね。」 「は、なにいってんの、」 「ん〜?」 「あの、おそ松くん、離して」 「……ごめん、我慢できないや。」 無理やり顎を持ち上げられて、何をされるのかと思えば、キスをされた。触れるだけのものが何回も降ってきて、そのあとに吐息が溢れるほど深いものになっていく。 リップ音の近さに、感触の気持ちよさに、腰抜けにされそうで、玄関を背にし私は必死に身体を支えた。 「はぁ、はぁ、おそ松く、」 「はやく、言えよ、」 「え、」 「はい、5秒数えるうちに言わないとどうなってもしらないよ〜?」 ただでさえ頭が状況に追いついてないのに、なんのことかわからずに私は狼狽する。そうしているうちに5秒数え終わってしまった彼は首筋に顔を埋めてきて、思いっきり吸い付いてきた。なにをされたのか検討はついて、思わず首元を触る。きっとこの場所には赤い痕が残ってるに違いない。 「1個目ね、はやくしないと、どんどん増えちゃうよ〜?」 「え、まって、どうすれば、」 「んーじゃあヒントあげる。」 俺のこと好き?ってわざわざ耳元で囁くから、全身が沸騰したみたいにじわじわ熱くなる。もう何年も前からめちゃくちゃ好き。大好き。なんどもなんども、溢れかけた気持ちをついに伝えるときがきたのだ。 「好き………じゃない!」 でも、やっぱり私は素直になれなくて、というか、言えるならとっくに言ってるし!そもそも、おそ松くんって、追いかけたら逃げちゃいそうだし、告白した日にはこの関係すらなくなってしまうんじゃないかって不安しかないし、いろいろ理由を付けて後回しにしてきたの。 「ふーん、嘘つくんだぁ。言わないなら、出歩けないくらいキスマーク付けてやるまでだけど?」 「まっ、まって!」 すでに後ろは壁。逃げ道はない。にやにやと余裕そうに笑ってるおそ松くんは、私が彼を好きだともう確信している。 なにがなんでも、私から言わせたくて、それが妙に悔しくて、でも、これは降参するしかなさそうだ。 「すき、」 聞こえるか聞こえないかの小さな声なのに、彼の耳にははっきりと届いたようだった。「俺も好き」って微笑む彼と目線を合わせることができなくて、赤面したまま私は俯く。嬉しいはずなのに、このまま溶けてなくなりたいくらいの気持ちに飲み込まれる。恥ずかしすぎるよ。 だけど、それさえも許してくれなくて、再び顎を持ち上げられて、キスをされた。 「そーゆう顔、俺以外に見せちゃだめだかんね?俺だけが知ってるなまえちゃん、」 もう一度抱きしめられて、赤いパーカーからはタバコの匂いがする。 この人は意外と独占欲が強くて、意地悪な人だ。でも、どんなおそ松くんもだいすきに変わりはないの。 |