おそ松 | ナノ









※学生設定


朝起きて、学校行って、授業を受けて、休み時間は読書か音楽かケータイでネット。昼休みは弁当食べたあとの昼寝。午後の授業を受けたら、あとは家に帰るだけ。そうすれば、誰とも話さなくて済む。

でも、人は醜いから。 プライドを傷つけられた、ただ単に気に入らない、嫉妬心、こちらがなにもしなくても、きっかけなんてありふれている。スイッチが入った途端、人は平気で人を蔑めることに力を注ぐ生き物だから。

生きることに恬淡な方が、息苦しくない。


「……一松くん。」
「………」
「ごめん、そばにいさせてほしい…」


上から下まで瞬時に目を動かし、汚れた制服を纏う彼女にため息が漏れる。
なに?また、やられたの?と、口から零れそうになった言葉をこらえた。
旧校舎に寂れたベンチがあることを、きっと他の誰も知らないのだろう。だから、いま、俺はここにいるわけで、ふらりとやってきた彼女は「勝手にすれば?」と吐き捨てた俺の言葉を聞いて、そっと隣に座った。

肩に彼女の重さを感じる。こてんと頭をこちらに預ける彼女はいまにも泣き出しそうな顔をしていて、少女漫画のヒーローだったら、ここで一つ慰めの言葉でも言えるのだけど、生憎俺はただのゴミ人間だ。


「なんで、こうなっちゃんだろうな…」
「…………」
「…私、あの子の彼氏なんてとってないのに…」

彼女の言葉はまるで独り言のように発せられる。

あー出ました。女特有の恋愛関係ごたごたね。めんどくさ。本当、飽きないよね。どいつもこいつもクラスの人間はリア充ばかりで、てか、盛りすぎだし。お前ら野生動物かよって言いたくなる。本能のまま生きすぎでしょ。

そして、修羅場に巻き込まれる彼女は、クラスで1、2を争う可愛いさ。他のブス女たちが彼女を疎外したくなるのもわかる。自分に自信がないから、そうやって団結して彼女を外に追い出すわけだ。醜い醜い。
実は正直に言うと、みょうじさんは俺のタイプだし、下品な話すればオカズにだってできる。俺も男ですから。でも、まあ、高嶺の花ってやつだよね。こんなにも近いのに、一生届かない距離にいる。



「……じゃあさ、俺と付き合っちゃえば。今、彼氏いないんでしょ?」



そしたら、くだらない争いなんて起きないよ?余裕ぶって、少し口角を上げた。
だけど、すぐに正気を取り戻す。ちょっと、待て俺。なに口走ってるんだよ俺。とツッコミを入れる間もなく、みょうじさんの顔が真っ赤に染まっていくのをみて、目ん玉まん丸にして俺は彼女を見つめた。



「…私でよければ、」
「いやいや、ここは普通断るでしょっ!」
「なんで…?」


なんで?じゃないよ。君の純真無垢な瞳が僕を突き刺す。こんな闇オーラ纏ってるやつの恋人にでもなったら、君はもっと日常から切り離されてしまう。君にはきらきら輝いていてほしいから。俺の世界には必要ない。俺はこの真っ暗な世界に1人で浸っているのがお似合いだ。踏み込んでいいのは俺と血のつながる奴らだけ。

「……私は、好きだよ。一松くんのこと。」


ふわりと暖かな熱に包まれる。せっけんの香りの、いい匂いがする。彼女に抱きしめられてることに全身の血流が良くなる。情けない話、女子に触れるなんて初めてのことで、羞恥のあまり、声が出なかった。


だけど、わかってしまったよ。





ひとりぼっちになりたくない君は、
僕という人形に縋り付きたいだけ。

(君の体温は、暖かくて、そして冷たい。)


俺は君のことが好きだけど、君は俺のことなんて好きじゃない。けれど、その嘘に付き合ってあげるのもわるくないかなと思った。