おそ松 | ナノ









がちゃがちゃとうるさい音が実は心地よいのは、ギャンブラーにはよくあることだと思う。タバコをふかして、ただ、ひたすらに目の前のパチンコ台をみつめる。

……当たれ、当たってくれなきゃ決心がつかない。

クズな俺はどうせ、今日限りでギャンブルから足を洗うも決めたところで、戻ってきちゃうんだろうなー。
でも、それでもいいから、なにか俺の背中を押してくれるきっかけか欲しかった。


「おおお!?」


予算は限られている、使い果たしてしまうところで、ぴろぴろとあたりの文字が浮かぶ。当たれ当たれと懇願すればするほど、負けることが大半だけども、今日は俺に女神が舞い降りてくれたわけよ。



もうすぐ日が暮れる。手に入れた札束をポケットに突っ込んで、これであれを買って、ああして、こうして、ああすれば彼女はきっときっと喜んでくれるだろう。

目的のものを手に入れた俺はそのまま真っ直ぐに家路を辿った。彼女の待つ俺たちの家に。ぼろアパートだけども彼女と2人ならどんな豪邸にも負けなからね。

さてさて、人生最大のミッションが俺を待っている!



「なまえちゃ〜ん!たっだいま〜!」

「もう!遅いよ!どうせ、またパチンコ行ってたんでしょう!?」

「えへへ!」


俺が、ごめんね!てへぺろ!って可愛く謝れば簡単に許してしまうなまえちゃんって、ほんと人がいい。だから俺みたいなクズに捕まっちゃうんだよねーまあ他の男に渡す気なんて微塵もないけどさ。



「ねえ、なまえちゃん、」

「なーに?」

「手出して、左手!」

「はい!」


彼女はまるで犬みたいに、ぽんと俺の右手の上に乗せた。白くて細い綺麗な指に、自分のごつごつした指を絡める。
黙り込む俺に、もーどうしたのー?って君は首を傾げた。

やばい、いざ、直面すると想像以上に緊張してる。ばくばくと心臓が鳴ってる。でも、ここで言わなきゃ男じゃないぞ!松野おそ松!


俺の苗字をプレゼントだ、一生俺の味噌汁作ってください、俺と一緒に子供作ろう…最後のは冗談だけども、台詞はいくらだって思いつく。なんどもなんども言うタイミングを考えた。大規模なサプライズする金なんて俺にはないし、そもそも、指輪買う金さえなかったんだよ、さっきまで。


もう片方の手で、ズボンにしまっておいた、四角い箱を取り出す。安物だけどもきらきら輝く輪っかを君の左手の薬指にはめた。


「どーしたの、これ?」

「まーそれはいいから、ちょっと、聞いてて!」


まだ、心臓はうるさい。落ち着け落ち着け、落ち着くんだ俺!

彼女と一緒に暮らして、数年。きっと、この先もずっとずっと俺はなまえちゃんと一緒にいるのだろう。いや、嫌だっていっても離してやんないけどねー!
正直、結婚ってただ責任が重いだけの鎖だと思ってた時期もある。だって、好きなことやって、好きなように2人で生きたいじゃん。
自由に慣れきってる俺としては、なんの魅力も感じられなかった。



「………俺と、結婚しよ、」

「え、ニートなのに?」

「もうさームードぶち壊すなよっ!」



君はクスクスと笑ってる。確かに正論ですよそうですよ、俺は現在アルバイトもやめてニートですよ。人生の負け組ですよ!
でもさ、俺、君と一生の契りを交わせばどんなことだってやってみせるよ。アルバイト何個も転々としてきたクズ野郎だけど、今度こそちゃんとするよ。



「あのさーー『はい』っていってほしいんですけどー」

「しょうがないなーはい!喜んで!」


なまえちゃんはそっと目を瞑ったから、俺は答えるように触れるだけのキスをした。



ハッピーになれる法則



俺といることで君が不幸になってしまわないように、俺といることで君がいつでも笑っていられますように。

君が幸せでいてくれるならば、俺はそれだけで幸せで胸がいっぱいだから。