くろばす | ナノ






みんな知らないと思う。

だって、彼はとてもとても影が薄くて、物語でいうと通行人Aとか、それぐらいの存在感だから。
でも、本当はとても紳士的で、誰よりもバスケをしている姿がかっこいいんだよ。

きっと気づいたのは私だけだね!なんて、彼の恋人になれた今でも優越感に浸っているの。



「テツヤくーん!」


「なんですか?」


「大好き」

「はい、はい。」


「大好き大好きだいすっ」


ふにっと柔らかいもので私の唇は塞がれた。それは彼の唇で。

言葉を遮られたことなんてどうでもいい。
だってこれ、今日初めてのキスなんだもん。



「…なまえさん、図書室では静かにしてください。」


「えへへ、わかったよー!テツヤくん大好きっ!」


調度、お日様の当たる窓際の席で、私は隣にいるテツヤくんの腕に巻きついた。

はぁと溜め息を着く姿も、彼が読書する姿も、今では見慣れた光景である。

部活で多忙な彼と共に過ごせる一時…そう、それは学校のお昼休み。

本当はもっと人の少ないところで二人きりになりたいけど、彼がどうしても図書室でというから、ここにいるわけで、まあ私はテツヤくんと居れるのならばどこだっていいのです。

この時間が、今の私にとって、一番幸福なことに違いはないのだから。


「……で、今日はなんの日か知ってますか?」


え?と間抜けな声が出ただけで、唐突に呟かれた、その言葉に私は答えられなかった。

付き合った記念日?いやいや、違う。

バスケ部の練習試合があるとか?
いや、今日は部活ないって言ってたもん。


ああ、どうしよう、わからない。



「……君にまで覚えてもらえてないとは、結構堪えますね。」



彼の口ぶりから、どうやら、チームメイトにも、クラスメイトにも忘れられていたみたい。
流石と言っていいほど彼の影の薄さは凄いと思う。



「…あ……!」


テツヤくんに関わる記念日って、もしかして、もしかして、もしかして…



「…今日、誕生日な…の?」




心なしか、そうですよ。とテツヤくんは寂しそうに笑ってるように見えた。


半分冗談で言ってみたのに、まさか、今日だったなんて…!
というか、彼氏の誕生日知らなかったとか、私、彼女として最低だ!



「ご、ごめんね、テツヤくん。本当にごめんねっ…!」

「許さないです。」


口調からは感情が読み取れないし、相変わらず、本に夢中なテツヤくんは、私に目線すら合わせてくれない。

いつもなら、しょうがないですね。と、笑って許してくれるのに。頭をぽんぽん撫でてくれるのに。



「…お、怒ってる…?」

「はい。とても。」



テツヤくんのことなら誰よりも知っているつもりでいた私は、思い上がりも甚だしいものだ。
沈黙が続き、幸せな時間のはずなのに、 時計の針がゆっくりと進んでるように見えた。

きっと簡単には許してくれないだろうね…。一度決めたから彼は曲げない人だと良く知っているから。
そう思うっと余計に気持ちが沈みそうになるよ。



ぱたん、と本を閉じる音がして、ようやくテツヤくんはこっちを見てくれた。



「……なまえさん、プレゼントください。そしたら、許してあげます。」


「え、本当にっ!?…あ、で、でも、私なにも持ってないよ…」


「君は持ってますよ。とても大切なものをね。」


そうは言われても、制服のポケットに手を突っ込んで探してみるけど、やっぱり私はなにも持っていなかった。
なにが大切なものなんだろう…。

頭を抱えて悩んでる私を余所に、なんだか楽しそうにテツヤくんは笑っているんだけど。

あれ、でも、いつもみたいな天使の微笑みじゃないかも…。


どこか含みのあるような…。何かを企んでいるような…。




「…君の純潔を僕にください。」


耳元で囁かれた言葉の意味が一瞬わからなくて、でも、理解した途端に顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。

どう返せばいいのかもわからないし、動揺の余り声が出せず、ぱくぱくと口が動くだけ。

そんな私をぎゅっと抱き寄せて、再び耳元に語りかけてくる彼は、バクバクと動いている私の心臓を壊したいのかと疑ってしまうよ。



「…今日、奪っていいですか?」



その返事として、私はこくりと頷くのが精一杯だった。

大好きなテツヤくんとなら、いいよ。怖いけど…がんばる。




「沢山愛してあげますよなまえさん。」



だから、君も沢山愛をくださいね、とテツヤくんは綺麗に笑った。
女の子みたいに真っ白な肌に華奢な体つき。でも、本当はとても強引で男らしい…そんなテツヤくんもだいすきだよ。

誕生日おめでとうテツヤくん…!


無愛想な彼は欲張りさん
(とりあえず、君にリボンでもつけましょうか?君が誕生日プレゼントなんですから♪)
(や、やっぱり恥ずかしいよ…!そそれに私たちまだ高校生だし…!)

(何言ってるんですか……逃がしませんよ?)



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20130131
はっぴーばすでー黒子っち!