今日もいつもとなにも変わらない。勝つために、今日という時間を使うんだよ。毎日毎日、それが僕の生き方だから。 太陽が嫌と言うくらいに照りつく真夏。バスケットボールが床に付くのと同時に、汗が零れ落ちる。夏のスポーツは他の季節に比べて、暑さで、疲労がさらに蓄積されるから、早く秋になってほしいな。 だが、今は放課後だ。もうすぐ日が落ちるであろう時刻。夏といえど、夕方は昼に比べれば大分、涼しくなる。 「それじゃ今から休憩ね!」 「青峰っち!1on1しよーッス!」 「あーいいぜ!」 「もう!二人とも休憩くらいはおとなしくしてなさいよ!……あれ?赤司くん、どこいくの?」 「外に出てくる。あいつらの見張りは任せたよ桃井。」 「わかった!」 俺は蒸しきっている体育館を出て、入り口にある階段に腰をかけた。やはり涼しい。さっきまで動いていたから、僅かな風でも気持ちがよい。もちろん、涼んでいるだけではなく、今後のメニューを考えながら。時間を微塵も無駄にはしたくはないからな。 一人一人の、特徴、欠点を思い出し、対策をノートに書き込んでいく。部の主将である以上、全員の全てを把握していなければならないし、抜かることは許されない。これも勝つためにはやらなければいけないことだから。 「あぁ飛行機曇だあ!」 ふいに間抜けな声がしたものだから、なにかと思い顔をあげると、空にカメラを構えている女がいた。やけに嬉しそうに眺めているものだから、釣られて空を眺めてみると、女の言った通り一筋縄の雲が出来ていた。 ただの飛行機雲だろ。くだらない。 珍しくはぁと溜息が出た。 …また、こいつか。 彼女を見かけたのは、今日が初めてではない。 大体、この時間に、いつも、そうやって、 空ばかり見上げている。頭が空っぽそうな俺の嫌いな人種。何を考えているのかこの俺にもよくわからない。わかりたくもないがな。 手に持っているものから、きっと、写真部の人間なんだろう。 だからといって、とくに興味をそそられるわけもなく。気にせず、再び思考を巡らせ、手を動かす。 はずだった… 「それ、そんなに面白いの?」 「へっ!?」 体が勝手に動くなど初めてで、自分でも驚いたのだ、いきなり声をかけられた彼女はもっと驚いたに違いない。 案の定、わああと、危うくカメラを落としそうになって、あわてふためく彼女に、ふ、と笑みが漏れた。部員の黄瀬のような、なんだか自分とは違う生き物のようだ。そう思っていると、人懐こい動物のように俺の元に駆け寄ってきた。ふにゃあっと笑っている姿は、ますます、黄瀬と被る。 「空の写真ばっか撮って、なにが面白いの?コンクールにでも出すの?」 運運動部以外の部活動もこの学校には沢山存在して、そして、どんな部にも必ず勝敗はあるわけで、もちろん応募する為の写真を撮っているのだと勝手に解釈していた。 「違いますよ!…ただ写真が好きだからです。だから、撮ってるんです!」 「ふぅん。」 それに私帰宅部なんですよ、と期待していた回答とは違ったことに少しだけむっとなる。 「ここにいるってことはあなたはバスケ部さんですか?」 「そうだよ」 あなただってすごくバスケ好きってオーラでてますよ、と、わけわからないことを言うものだから、威圧してやろうかと思った。これが男だった確実に殺しているだろうな(冗談だよ) 嬉しそうにカメラを撫でる彼女の気持ちは、正直俺には理解に苦しんだ。勝つことが全てで、それ以外に正しいことなどない。もしあるとすれば、事細かく、納得のできる回答が欲しい。 まあ、あるわけないだろうな。 カシャッ 「!」 間近でシャッター音がしたかと、思えば 、彼女が俺に向けて写真を撮っていた。 なにしてるの、と睨み付けて問うと、彼女は申し訳なさそうに、すみません、と漏らした。 「……私、人を撮るのは苦手なんです。でも、あなたがあまりにも綺麗だったから、つい、」 その赤髪も、赤い瞳も、夕焼けに負けないくらい綺麗です、と。 よくそんな恥ずかしい台詞が次々と出てくるものだ、と思わず関心。 眩い橙色を背景に、えへへ、と悪戯っぽく笑う、彼女に 一瞬見とれた自分に腹が立った。理由などない。内容はなんであれ、言われっぱなしは性に合わないな。 よし、こちらも言い返してやろう。 「それを言うなら、俺なんかよりも……」 「ん?」 「なんでもない。」 君のが綺麗だよ、と口走りそうになり、ぐっと押し込んだ。…なんて、らしくないんだ。ほんとうに。 やっぱり今日の俺はどこかおかしいのかもしれない。 主将が体調不良など、示しがつかないな。今日は帰宅したら、さっさと寝よう。たまには休息も大事だな。 俺が黙り込んでいると、彼女が突然、あっ!と何かを思い出したのか呟いていた。 「ちょっと、用事思い出しました! 私そろそろいきますね!部活がんばってください!」 「ちょっと待って。」 「え」 「名前」 彼女の腕を掴み、歩行を止めてやった。丸くなっている、彼女の瞳が、俺を見下ろしている。 見下ろされるのは好きじゃないけど、今日はこのままでいいや、立つの面倒だし。 「名前教えて、」 ああ、そうゆうことか、と、ようやく理解した彼女は、頬を緩ませ、ふわりと笑って見せた。 「私、なまえ!よろしくね、バスケさん!」 俺が掴む力を緩めていたものだから、するり拘束から逃れると、俺が名乗る前に彼女はくるりと、方向を変えると校舎の方へ走り出した。 一度振り返って、またね、と、大きくこちらに手を振り、また走り出す。 ひらひらと短いスカートが揺れる。 この俺が呆気にとられていた。なんて自由で、掴みどころのない女なんだ。 だけど、 その影が離れていくのを、 見えなくなるまで、俺は彼女の姿を見つめていた。 「なまえか…」 先ほど聞いた名前を無意識に呟いていた。 この季節には似つかわしい、暖かい気持ちと一緒に。 もっと近くまでいきたい。 影がぴたりと重なるほどに、 縛られることが嫌いそうな自由な君を 鳥かごに閉じ込めてしまいたい。 俺の腕の中に閉じ込めてしまいたい。 ああ、この気持ちなんというのかな? 初めての気持ち。 (初めて乱された、) (だから、今度は俺が君を乱してやりたい) ---------------------- 一体何がかきたかったんだ。 とりあえず、恋を知らない赤司様まじ赤司様を書きたかっただけ。初恋とかもえる。 空の写真撮る趣味は私の趣味です。 ごめんなさい。 |