「……優勝は……」 観客席からの祝福に、ブザー音が耳に残る。 「……征十郎?」 あなたは泣いていた。それは、この世にある誰もが知っているあの感覚を覚えたからだ。 敗北。それは、赤司征十郎にとってはありえないことで、存在しない物だった。それもこの試合が終わるついさっきまでは。 優勝を果たしたのは、私がマネージャーを務める、誠凛高校。 「……なまえ。」 彼は黒子君と言葉を交わして、真っ先にこちらへと歩いてきた。 はらりとタオルが床に落ちるのも気にならない。選手整列よりも先にあなたは私を抱きしめる。周りと比べれば華奢なその身体にすぽりと覆われる。 彼は少し、震えていた。 「……おかえり。」 それは、本当のあなたが戻ってきてくれたことに対して。戦い抜いたあなたに対して。弱さを見せてと、私が受け止めるからと、愛してあげると、たくさんの意味を込めて伝えたその言葉に、あなたは気が付いてくれたのでしょうか? 「俺は負けることを望んでいたのかもしれない。」 「うん。」 「…格好悪いな。」 「ううん、征十郎は世界一かっこいいよ。」 ぐいとつま先をあげて、私よりも背の高いあなたの頭を包み込むように抱きしめる。 深刻になる彼に、たかが高校の部活動だろうと笑う人がいるのかもしれない。 必死になって、バスケットボールにしがみつく彼らの姿のどこにも馬鹿にできる要素なんてないの。 すすり泣くことによって、肩が揺れる。 「…なんで、なまえまで泣いてるんだい?」 「征十郎がたくさんたくさんがんばったからだよ、」 征十郎がこうして、静かに涙を流したところできっと、泣き足りないでしょ?だから、私も一緒に泣いてあげるの。だなんて、笑って彼と目を合わせる。 「……私、決めてるもん。どんなことがあっても、征十郎と二人で乗り越えるんだって。」 ライバル校の私に言われたくないかもしれないけど、そもそも、敵である前に私は征十郎の恋人なのだ。 大袈裟かもしれない。私はとっくに征十郎の人生を受け入れる覚悟ができている。重荷を担ぎすぎている、あなたの全てを私の器では支えきれないかもしれない。それでも、離してなんてあげない。 逸らさずに、きちんと向き合って、あなたを幸せにしてあげたいの。 薄ら微笑む彼からは、言葉はなかったけれど、ありがとうそう言われてる気がした。 「……来年は、お前が悔しがって泣き崩れてるのを慰めてあげるよ。」 「望むところだよ!」 私が試合するわけでないのに、妙に強気になれてしまう。だって、誠凛は強豪ですから! 打倒!洛山!と言いかけて、その唇はいとも簡単に塞がれたものだから、私といえば顔を真っ赤にすることしかできなかった。 (…あの、いい加減整列してくれませんか?) (ご、ごめん黒子君……!) (それじゃ、この会場は今から俺が貸し切りにしようか?) (だめ!) おかえり、もう一人のあなたが現れたときも、もちろん言ってあげるよ。 ----------------- 完結巻が発売されて、ようやく、受け入れられた気がします。 久しぶりに赤司君を書きました。赤司君が幸せになってくれれば、それでいいなと思います。 |