「……本当にいいのかい?」 「今更、何いってるの?」 「いや、なまえを巻き込んでいいのか考えてた。」 「…征ちゃんのためなら、本望だよ。」 がたんがたんと電車は揺れる。私達に行く宛はない。ただ、遠くへ行きたくて、現実から逃げたくて、少しの貯金が入った通帳とそれから生活に必要なものを詰め込んだボストンバックをひとつ持って飛び出した。友人も親も捨てて。それだけで今後生きているのかと問われたらもちろんノーで、後のことなんて何も考えてない。いくら自立している成人だろうと無謀だなと思う。でも、後悔はしてない。 「……征ちゃんの苦しむ姿、これ以上見たくないから。」 いつだって征ちゃんは平然を装っていた。けれど、プレッシャーに圧力に私には想像も付かない多数のものに今にも押しつぶされそうだったことを、あなたは自分でも気づいてないよね。 あなたは沢山傷ついて来た。 だから、もう、何も背負わせたくない。 「……ありがとう。なまえは優しいね。」 「お礼は言わないで。」 純粋な征ちゃんの言葉に心が翳るのは、あなたのためだと謳って、本当は誰よりも自分のためだから。いつかあなたを他の誰かに取られる前に、そんな独占欲が心に潜んでいる。 私があなたのもののように、あなたも私のものなの。 「…愛してる。」 始発の車内には他に人はいなくて、隅っこに座る私達はキスをした。一度だけじゃ足りなくて、何度も重ねる。 まるでこの世界に私とあなただけのような錯覚さえ起きる。本当にそうだったなら、どれだけ幸せだろう。 「…ずっと、一緒にいよう。」 「う、ん。」 離れないように手を握って、その言葉を信じたいのに、信じきれなくて、歯切れの悪い返事をした自分を責めたくなった。 逃避行の後に残るは、 この恋に終わりがあるのだとしたら、それは、私達が見つかって、あなたが結婚する時でしょう。 駆け落ちなんて、現実味のないドラマみたい。 でも、赤司グループの御曹司と、庶民の私が永遠にいれる方法はこれしか思いつかなかった。 一分でも、一秒でも、あなたと過ごせた時間はなによりも変え難い私の宝物です。 --------- 突発文です…! |