小説 | ナノ



 
銀高


「…よォ、」


万屋を始めてもう随分と経った頃だ。丁度新八がここに来る数ヶ月前にそいつはやってきた。白昼堂々この歌舞伎町を横切って、この片目の男はここを訪ねてきた。

「…た、かすぎ」


玄関が開く音が聞こえたと思い読みかけのジャンプを置いてめんどくせぇ、と思い頭の後ろを掻きながら起き上がると高杉が縁にもたれ掛かっていた。女物の着流しを軽く引っ掛けたようなナリで薄ら笑いしながら加えた煙管から煙を吐き出した。
ドクン、と心臓がゆれる。久しぶりすぎる、こいつに会ったのは。


「久しぶりだなァ、銀時、」

「…高杉、お前…」

「なんだよ、つれねぇなァ、久しぶりだってのに…」

高杉はクク、と喉の奥で笑うとこちらに近づいてきた。


「、なんの用だ」

「…用かァ、特に思いあたらねぇな、銀時」

「…」

チロリ、と彼の唇から赤い舌が覗く。ドクン、とまた心臓がゆれる。これはもう反射的な行動だ。俺はこいつを見るとどうも滅茶苦茶にしたくなる。酷く泣かせたくなる。

「…俺ァ、ただお前に会いに来てやったんだぜェ?」

「…、」

「わかるだろ、?」

まずい、そう思った時にはもう遅かった。腕を伸ばせば掴める距離にいた高杉を引き寄せて、乱暴に唇に噛みついた。高杉は抵抗することもなくするり、と俺の背中に手を回した。

「は、…、銀時、」

「…」

「…てめぇは相変わらず平和ボケしてんのか、?」

口内を味わって高杉の口からだらしなくどちらかの涎が垂れた。薄ら笑いが取れない唇から自分のそれを離すと高杉が俺の髪の毛を掴んで言った。高杉の味を知っていた俺が止めれるはずがなかった。そのまま乱暴にソファに押し倒して、乱暴に抱いた。久しぶりすぎる高杉の体は昔より痩せており昔より傷が増えていた。感覚が研ぎ澄まされていく。


それから日が暮れるまで高杉を抱いた。高杉は声が枯れていたがさして興味が無いように煙管に火をつけた。


「…相変わらずこんなガキが読むようなもん読んでんのか、」

「…うるせー」

「相変わらずだなァ、銀時、」

うつぶせで自分の腕を枕にしながら煙管の吹く姿は昔を思い出させた。俺は床に座り込んでソファに寄りかかっている。
灰皿が無いのをお構いなしに灰を下に落とした。


「ちょ、おま、やめろ!!床焦げちまうだろがぁ!!」

「じゃあお前の口で受け止めろ」

「馬鹿じゃねーの!!無理に決まってるからねソレ!死んじゃうからねソレ!!!」

高杉はまたクク、と喉の奥で笑った。すると彼は立ち上がり、乱れた着流しを羽織りなおした。

「あー、腰がいてぇケツがいてぇ、」

「晋ちゃんがあんまりにも可愛いからァ、銀さん夢中になっちゃってェ?」

「てめぇはヤってる最中といい今といい、その減らず口は直ってねぇみたいだなァ」

「…もう行くのかよ、」

「なんだよ、寂しいのか?白夜叉殿?」


高杉はそういって部屋を出た。俺は頭をくしゃりと掻いて玄関まで追いかけた。すると高杉はこちらに振り向いて煙管を加えて煙を吐き出した。

「また来てやらァ、」

「…高杉、」

「…」

「高杉、お前…」


玄関のドアが閉まった。俺は言いたいことがあったが声にならなかった。追いかけることもしなかった。部屋に戻るとそこは煙管からでた独特の香りと性行為後の独特の匂いがして確かにここに高杉がいたことを物語っていた。

なぁ、俺たちは何を違えたんだろうな。
戦争なんかなけりゃぁよかったんだ。刀なんか知らなけりゃよかったのか?あいつはあいつのやりたいことがあってそれは勝手なことだが、俺はそれを許せそうにない。エゴだ。
高杉が誰かに抱かれていることを考えると吐き気がした。今日は眠れそうにない。外は新月でネオンサインが光っているのみだった。笠を被った男が誰にも気づかれないまま街を横切った。









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