そっちを見ないで
最近、彼女の様子がおかしい



「……気持ち良くない?」


「ん、そんなことない。気持ち良いよ」



柔らかく微笑む彼女はどこか上の空だった



どこか冷たい行為の後、抱き合って眠りにつく



なんとなく眠れずに起きていたら、姫が身じろぎをして、ふと目を少し開ける



「あ、起きちゃったんスか?」



小声で尋ねる俺に、彼女は焦点のあわない目を俺に向け、呟いた



「青、峰……君」



「……え?」



一言を残し姫は再び深い眠りについたようだ



「青峰っち……?」



どうして青峰っちの名前をひめっちが呟くのか


その理由はわからない



「寝ぼけてただけっスよね……」



どう考えても無理矢理だが、自分を納得させ眠る体制に入った



結果一睡もできなかった。翌朝姫に聞いたところ、昨夜は起きてないとのことだった



……多分、本当に寝ぼけてたんスね



どこか不安な気持ちで学校に向かう



―――――――――


「あ、私用事あるんだ。ごめん涼太先に教室行ってて」


「了解っス。」



姫は靴を履きかえたらそう言って走り去った


何気なく視線を下にやると、髪ゴムが落ちていた



「これ姫っちのだ」


教室で渡しても良かったが、一人で入ると取り巻きがうるさいためなるべくなら姫と行きたいし、少しでも長くいたい



そう思い彼女が去った方向へ向かう




近づくにつれ、話し声が聞こえてきた


(ひめっちと青峰っち!?)


二人の存在を認識し、そっと覗いてみる



(あ……)



二人の表情でなんとなく分かった



姫は青峰を好きじゃない


だが青峰は彼女を想っている




そうか、そうだったのか……



納得が行く半面、新しい謎が出てきた



「なら、何でひめっちは青峰っちの名前を呟いたんスかね?」

それから何日も二人を観察し、今信じられない光景を見てしまった


二人が腕を絡ませ、青峰っちの家へ入っていった


そうか


そうだったんだ


やっと気づいた


彼女は青峰っちと浮気をしている



多分心は通わない、体だけの。



正直複雑だが、裏切られた悲しみより、焦りが大きい



今は体だけでも、そのうち全部彼にいってしまうかもしれない



嫌だ


どうすれば



どうすれば俺に繋ぎ止めておける?



――――――

どう帰ったかも覚えていない

急遽入ったモデルの仕事を終わらせ、寛いでいたら姫が呑気な様子で家に入ってきた


「こんな時間にごめんね?涼太といたくて…」


「男物のシャンプーに変えたんスか」


「っ」


率直に思ったことを告げると、彼女は息をのんだ


多分、親にバレるからシャンプーとか持ち歩いていたんだろうな。今日に限って忘れたのだろう



そこまでわかるのに、嫌いになれない
「ちが、うよ。シャンプーきれちゃって、お父さんの…」



そんな言い訳しちゃうんスか


「例えお父さんでも男物のシャンプーつけてる子が彼女なんて、ちょっと嫌っス」


「そんな…!本当にごめん!ちゃんと女物使うから!別れないで……」


「……冗談っスよ。入って」



姫ならシャンプーなんて関係ないが、本気で不安で堪らないという姫の顔を見て、少し満足する



彼女からの好意も、伝わってくるのに



どうしてこんなに苦しい



頼むから、俺だけ見ていて


どんなに思っても、
明日も君は彼のもとへ



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