「涼太、今日笠松先輩と話すから先に帰ってて」
それは部活が終わりもう帰宅しようとしていた俺に彼女が言った言葉
その台詞を聞いたのは今月でもう何回目だろうか。最近は俺と一緒に帰るよりあの人と帰る回数の方が多い。マネージャーとして仕方ないのかもしれないけれど、それに少しの寂しさも見せないあんたは気づいてるのかな。
「なら待ってるっス。もう暗いから危ないし送ってくよ」
「大丈夫!笠松先輩が送ってくれるから!!」
思わず息を呑む。ひめっちのあの人を呼ぶ声があまりにも明るかったから。
「…そう、っスか。じゃあまた明日」
「またね」
先輩のもとに駆け寄っていく彼女を目だけで追う。先輩とひめっちの空気は傍から見るとまるで恋人のようだ。
彼氏である俺が帰っていくのを気にも留めないで先輩と会話をする彼女に苦笑いを浮かべた。だってそんな笑顔、俺には全然くれないじゃないっスか
鈍感なあんたは気づいていないんだろう。前はその笑顔、俺だけのためにあったんスよ。それなのにいつの間にか笠松先輩のものになっていて、俺にくれる笑顔は友達、良くて親友としての笑顔に変わってしまった
だけどまだ、間に合うかもしれない。ひめっちが自分の気持ちに気づいていない今なら間に合うかもしれない。
明日からまた惚れ直して見せると握り締めた俺は知らなかった
誰もいないロッカールームで笠松先輩が彼女を抱きしめ、二人の距離がなくなったこと。鈍感な二人がお互いの気持ちに気づいてしまったこと。彼女から別れを告げるメールが届いていたことに
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