「あ、ありがとー」
佳典に買ってくるよう頼んでいたコーンスープを手渡されたので、お金を渡そうとしたらその手を捕まれ拒否された
「大した金額でもないし別に良い」
「……じゃあ甘えちゃお」
「ああ。…じゃあな」
佳典は優しい。すごく優しい。私がどんな我が儘を言っても何でも受け止めてくれる。その男らしさに惚れたわけだけど、ちょっと優しすぎると思う
クラスメイトにも分け隔てなく優しいし頼もしい彼は結構な人気者で、彼女としては嫉妬がこう、芽生えるというか……。むしろ断れなくて私の告白受けてくれたんじゃ……
「はあ…」
「ため息吐いたら幸せが逃げるよ姫ー」
「もう逃げてるよ優しすぎる……」
「諏佐?まあ確かにあんたの我が儘に付き合えるくらいだからよっぽどだよね。てか良いの?」
「何が」
「あれ」
彼女が指差す方を見ると教室の入口で後輩らしき女子二人組と話してる佳典がいた
「誰あれ。どっちも凄く可愛いんですけど」
「胸でかい方はバスケ部マネージャー。もう一人の子…は知らんけどそっちに呼び出されてたし告白かも」
「ええっ!?」
二人を改めて見ると、本当に可愛らしい。あんなのに告白されたら勝ち目ないじゃん…!
私がそわそわしてると、三人が移動し始めた。慌てて後を追いかけるとピンク髪の子は途中で別の方向へ歩いていった。
二人きりになった方を追いかけていると裏庭に着いた。大人しそうな女の子はまさしく清楚、可憐、などという言葉が似合う少女で佳典と並んで立っているて非常に絵になる
ざわつく胸を押さえ様子を伺う
「諏佐先輩、好きです。付き合ってください」
ああ。やっぱり告白だったんだ。どうしようあんな可愛い子だったら佳典だって……!
「俺好きな奴いるから…悪い」
「え」
私の心配を余所に清々しいほどきっぱりと彼は断った
「じゃ、じゃあせめてキス…させてください!思い出にしますから……!」
ほっとしたのも束の間、彼女はとんでもないことを言いはなつ。背が低い少女は精一杯背伸びして佳典の顔に近づいていく
「諏佐先輩……」
「………!」
触れそうになったとき、バチンと優しく佳典が少女の頬を叩いた
「俺は好きでもない奴からの好意を受け取ったりしない。……自分が辛くなる思い出なんか作るなよ」
少女は泣きながら去っていった
「佳典」
「見てたのか。悪趣味だな」
「ごめん。私……」
私が近づくと佳典はその高い背中を屈めて頭を撫でてきた。大きくて温かい手の感覚が気持ち良い。慰めてくれてるのだろうか
「何で姫が泣きそうな顔してんだよ」
「ごめ、だってなんか…嬉しくて」
「嬉しい?」
佳典が私のことを好きだってはっきり言ってくれたことがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
「……なんでもない!ねえ、もう一回好きって言って?」
「なっ……!」
上目遣いでじっと待ってると佳典はため息を吐いて薄く笑みを浮かべた
「……好きだよ。はい終わり」
「もう一回!」
「それで何回言わせるつもりだよ…」
私の企みに気付いてもきっと何度でも付き合ってくれるだろう
そして私は何度も何度も繰り返し強請った。だって絶対我が儘を受け止めてくれるから
我が儘が私の愛情表現ならそれを受け止めてくれるのが佳典の愛情表現なんだって
そう言ってくれた佳典の頬っぺたが赤かったのは私だけの秘密
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