ライバルに感謝を
※恋愛より青峰と火神との友人色強め


ストリートでバスケをするためいつもの練習場所にきた。町の外れにあるそのコートには最近火神が練習しているから行っていなかったが、今日は何故か足が進んだ

聞き慣れたダンクシュートの音。力強くバッシュが擦れる音。火神のバスケは荒削りだが、聞いてて悪いもんじゃねえ

だから今日は気まぐれで、ちょっとバスケでボロクソにやってやろうと思う。公園内に入ろうとしたそのとき

「火神……」

「火神くん、はいタオル!」

「ああ、サンキュー」

元気が良い姫の声が聞こえて足をとめた。咄嗟に隠れて二人を覗く。姫は俺と出掛けるときよりも可愛くて、なんだ…服に気合い入ってるっつーか機嫌も良さそうだ

「火神くん土曜日なのにこんなに沢山練習してたんだね」

「ああ。でもたりねえよ。あいつを抜かすには」

「あいつって…大輝のこと?」

「……ああ。やっぱ分かるか?」

少し照れ臭そうに笑う火神。それに対し姫は盛大に笑いながら言う

「わかるよ。だって火神くん大輝と試合するとき、怖いくらい楽しそうだもん。……ちょっと妬けちゃうな」

「はあ!?」

火神は慌てながら焦る

「い、いや楽しいけどよ、ライバルつうか、あいつバスケ強いからそれで」

「わかってるよ。でも大輝とバスケするときの方が絶対楽しそうな顔してるよ。あーあ、もう二人でくっついちゃえば…」

「……っ、姫!」

頬を膨らませすねて見せた姫の肩をつかみ自分に振り向かせた火神。そのまま額に軽くキスをした

「えっ…」

「あのさ姫……お前が青峰を好きなのは知ってる。今日あいつに告白しようとしたのも。でもここに来たからには何かあったんだろ?そんな、辛いんならさ、俺にしちまえよ」

姫は火神の言葉に目を見開いた。しかし俺も負けないくらい驚いている。俺に告白?どういうことだ?

俺が考えている間に二人の和やかな空気が一変、お互いがお互いを見つめ会う緊迫感に包まれた空気となる

「なんで知って…」

「……悪い。俺も今日お前に告白しようとお前の家に行ったらお前緊張しながら家出てきて…。話しかけられないままついてったら…」

「…そうだったの」

姫は俯いて手元にあった空き缶を握りしめた

「詳しくは知らねえ。ただお前があいつの家に行ったことしか。表札見て走ってここまできたから…」

「…大輝の家から、さつきが出てきたの。しかもお昼ご飯さつきの手料理らしくて」

「えっ……!?」

冷や汗が流れた。あれを見られていたのか。そこだけを見ると恋人みたいに見えるかもしれないが実際は親があいつを押し付けて食べ物じゃないものを食わされそうになったから家から追い出しただけなんだが

「ふふ、笑っちゃうよね。二人と親友くらいに近い距離にいると思ってたのに。ふ、二人が付き合ってたことも知らなかった……」

「無理に笑わなくて良い」

火神があいつをぎゅっと抱き締める。くそ、離せ、離せよ。俺だって姫が好きなのに。誤解されたままなんて嫌なのに…

情けない話だが足が動かない。今まさにあいつを取られようとしているのに。こんなに俺は臆病だったろうか

「姫、やっぱ俺に……」

「待てよ」

堪らず俺は飛び出した。足がやっと動いたが体の震えが止まらない。これは怯えかそれともあいつが俺を好きだと知った高揚感か

「俺が好きなんだろ?なら俺と付き合う以外の選択肢があんのかよ」

「大輝…聞いてたの…?」

こちらに駆け寄ってきた姫の先程火神に触られていた場所を消毒するように上書きしていく

「ああ。…たく、お前も誤解すんなよ。さつきは幼馴染みだっつの」

「え、え…?」

「…本当か?もし嘘なら」

「本当だ」

間髪入れず睨むような火神の視線を受け止める。それを受けた火神は、分かったと頷き立ち去る用意をする

「なら、俺が言うことはない。……姫、幸せにな」

ムカつくだが話の分かる男だ。自分は失恋したというのに姫の顔を見て笑った。清々しいくらい良い野郎だ。少し、感謝する

「大輝……」

「好きだ。姫」

「……私も。」

俺たちは抱き合いながらお互いの気持ちを確かめあった

「火神と浮気すんなよ」

「大輝こそ。さつきと浮気しないでよ?」

軽口や嫉妬ばかりの俺達。そんな俺等が収まるところに収まったのは、認めたくないがあいつのおかげだろう

今度会ったら、全力で1on1してやるか。幸せそうに笑う姫と一緒にここに来て

そしてあいつにこいつの笑った顔を見せてやろう。幸せのお裾分けっていうやつだ。少しくらいなら、してやるよ


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