※帝光
普段他人に興味がない紫原も幼なじみだというその少女のことになると過剰な反応を示す。あれは友情より恋情という方が正しいだろう。何事にも無関心な紫原がそこまで姫を恋う理由が知りたくてこの2週間二人を観察していた
するとどうだろう。観察するだけのはずが楽し気に話す二人に自ら近づいたり彼女に話しかけたりするようになってしまった
そう、俺は彼女に恋心を抱いてしまったらしい。困った状況の筈がむしろ楽しく感じている自分に気づく。駄目だ、引くことなどできそうにない
「紫原、最近姫とはどうだ」
「んー?どうって?別に普通だし」
「そうか。……ところであれはお前のクラスの女子か?お前を呼んでるみたいだぞ」
「えー、どうでも良い……」
「行ってやれ」
少し睨むように見つめると、酷く面倒臭そうに教室の外からこちらを見ていた少女の元へ向かう。それを見送り自分も席を立ち、二人の後を付いていく。まあ、ついていかなくても向かう先は校舎裏だろう。絶好の告白スポットらしいからな
「紫原くん…私同じクラスになったときからあなたのことが好きなの」
「ふーん」
興味なさそうな紫原に引く気がない少女は無理矢理抱きついた。それを振りほどこうとした手は女性は優しく扱えという俺の教えを思い出したのか、下がっていく
「ねえ、離して……」
「好き、……好きなの紫原くん…」
女性は紫原の服を引っ張り口付けようと顔を近づけた。しかし紫原が拒否してそれは直前で止まる。俺の場所ではキスをしていないと分かるのだが、角度によってはわからない
そう、例えばごみ捨てに来たばかりの姫の位置からなら確実に未遂とはわからない。
俺は彼女に近づき声をかける。その肩は可哀想なくらい震えていた。
「姫……」
「赤司、くん……敦が……」
「…ああ。彼女なのかな。随分と仲が良いみたいだね。こんなところであんなことするなんて」
白々しいと自分でも思う。だがこんな嘘も、彼女にとっては真実と成り代わる
「っ……彼女、そう…だよね。お祝いしなきゃ…。…でも、独り身なんて淋しいな!敦のやつ先に彼女なんかできちゃって……」
「…なら、俺と付き合うか?」
姫を手に入れるためならば何でもできる
引き換えにこの胸がどんなに痛んでも耐えられる。むしろ喜んで引き受けよう
壊したものは戻らない。しかしそれが、二人のように固い絆で結ばれているのなら話は別だ。だがそれでも良い
短期間でも君が俺のものになるなら
その後の君の笑顔さえ甘美な痛みとなるだろう
「……うん。よろしくね」
頷いた彼女を見て口元がゆっくりと弧を描いた