ラッキーアイテムは君でした

「真ちゃん眉間にシワよってるぜ。何かあった?」

「ああ…。今日のラッキーアイテムが中々難儀でな」

そう今日のラッキーアイテムはとても難しい。おは朝史上最も難しいのではないだろうか。なんとショートカットの女の子だと言うのだ。物ですらない。彼女である姫は髪が長いからダメだ。どうすれば良い……!悶々と悩んでいると前方から髪の短い女がやってきた。制服を見ると同じ学校だ。高尾の知り合いだろうか

「み、緑間くん…ちょっと良いかな」

「…なんだ。俺の知り合いではないようだが」

「馬鹿真ちゃん!あー俺先行ってるわ。じゃまた後でな」

高尾がいなくなるなり目の前の女は俺を見つめてきた

「私、緑間くんのこと好きなんです…!付き合ってください」

「何、俺を?……すまないが君の気持ちには応えられない。俺には既に愛する女性がいるのだよ」

「…わかった。じゃあせめて今日1日一緒に居させて!それで諦めるから」

大人しいと思ったが随分と積極的な女のようだ。姫以外の女と一緒なんて面倒臭い。しかしこの誘いはラッキーアイテムを得られる俺にとって非常に魅力的であり1日ならば問題ないだろうと判断し了承することにした

ショートヘアの女と二人で校門へ行くと姫がこちらへ走ってきた

「し、真太郎っ!」

「ああおはよう姫」
「おはようって……」

姫はちらちらと隣にいる女を見る。知り合いなのだろうか

「今日は…随分可愛い子と一緒に登校してきたんだね」

「?ああ、そうだな。お前よりは可愛いのだよ」

軽い冗談だ。俺が姫一筋だと言うことは分かっているだろうしいつも通り笑いながら怒られるのを期待していた。しかし姫の顔はみるみる真っ青になっている

「ど、どうしたのだよ?大丈夫か姫」

「知らない……真太郎なんかもう大っっっ嫌い!」

姫は脇目も振らず走り去ってしまった。それを見ていた隣の女は遠慮がちに尋ねてきた

「彼女さん…ですよね。大丈夫ですか?」

「…ああ。いつもの喧嘩だ。気にすることはないのだよ」

具合が悪かったのだろう。明日になれば回復して機嫌も直っているはずだ。そう考えた俺は馬鹿だった。実際に待っていたのは別れだったのに

―――――

「…もう一度言ってくれ」

「別れよう真太郎。」

「理由を教えてくれ。納得がいかん」

俺の言葉に姫は悲しみをぐっと堪えた顔で俺を睨みつける

「理由…!?そんなの自分の胸に聞いたら分かるんじゃない?…っ、さよなら」

涙を浮かべながら去っていく姫を追いかけることもできない。どうして、知らないうちに何かしてしまったのか。考えがぐるぐると廻る

「何してんの?」

「高尾…!居たのか」

突然聞こえた声に振り向くと高尾が冷静な目で俺を見据えている。

「例えばの話だけど姫って今女友達と登校してんじゃん?で、いきなり男と登校してきたら真ちゃんどう思う?」

「嫌…なのだよ」

「その上姫が真ちゃんよりそいつの方が格好良いー大好きーとか言ってたらどうよ」

「……想像もしたくないのだよ。俺は、そんなことをしていたのか」

「ならもうすることは一つだろ?姫んとこ行けよ」

「しかし…あいつは俺が嫌いだと言っていた。もう後戻りなどできるわけがない」

それに俺は姫を傷付けた。合わせる顔すらない

「……真ちゃんがこのまま姫と別れんなら俺が貰っちゃうぜ?」

「それはダメなのだよ!」

「…姫は保健室にいると思うぜ」

「そうか。高尾…感謝するのだよ」

自分的には素直なお礼を告げると高尾は満足そうに笑っていた

走って保健室へ行くと小さな背中を丸めて泣いている姫がいた。堪らずその背中を覆うように自らの腕で包むと、ビクッと身体を奮わせる

「し、しんたろ……?」

「ああ、俺だ。すまなかったのだよ」

「同情なんてやめてよ…!か、彼女はどうしたの?」

「俺の彼女はお前だけだ。苦しめてすまない。あの女は昨日のラッキーアイテムだったのだよ」

「え…?」

「短い髪の女がラッキーアイテムだった。」

「じゃあ、浮気じゃないの…?」

「姫がいるのに浮気なんかするわけないのだよ」

「本当に…?わ、私…可愛くないから、愛想尽かされたんだと思って…応援しなきゃって…でも誤解だったんだよね?信じていいんだよね?」

俺は本当に愚かなことをした。こいつの気持ちに気付かず手放すところだった。どんなにラッキーアイテムで運を良くしたってこれほど愛しい人に巡り会えるわけがないのに

「俺を信じろ。…姫は可愛いのだよ」

微笑んだ君につられて自分の頬も緩むのがわかった

一緒にいるだけで幸せになれる。ラッキーアイテムがなくても君がいれば






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