※中盤までシンタロー→アヤノ
彼女への想いに囚われた君に私は何も出来なかった。彼女が自ら死ん理由も彼女が君を遺して逝ってしまった理由もわからない
私にただひとつわかるのは、あなたがシンタローに残したものはあなたへの恋心だということ
「シンタロー…」
「……話しかけるな。もう、何も考えたくない」
彼女が死んだと知ったシンタローから返ってきたのは冷たい一言
そうやってまた人を遠ざけるの?また後悔しちゃうかもしれないのに。お願いだから私の話を聞いてほしい。神様はそんな願い、聞いてなんかくれなかったけどね
「サツキ、如月くんどうしてるだろうね」
放課後、懐かしい人を思い出していた私に友達が話しかけてきた。彼女がシンタローの話を持ち出したのは私が誰もいない彼の席を見つめていたからだと思う
「………私、今日行ってみようかな。シンタローの家に」
「えー。やめとけば?確かに格好よかったけどいいやつでもなかったじゃん」
「そんなことない。凄く、不器用なだけなの」
怪訝そうな友達に別れを告げスクールバックを肩にかけてシンタローの家に向かう
こうして彼の家に向かうのは去年以来からかな。最初の一年は話しかけたり電話をかけたりなんとか連絡をとっていたが、止めた。
どうしたって彼女の呪縛は解けないし彼の頭に私は居ない。恋人でもなければ親友でもない。
一方的な私からの感情で、彼を救うことなんてできない。彼もそれを望んでいない
だから止めた。でも今こうして彼の家に向かってるのは単なる気紛れじゃない。そろそろ私も先に進みたいから
「あれ?」
今、見慣れた人の声が聞こえたような……
声の方へ向かうとそこには数人の少年少女の姿が。なかにはかつて痛いくらい恋い焦がれた人がそこにいた
少し背が高くなって成長した彼は面倒くさそうにやり取りしている。それは無気力な彼じゃなくて私が昔好きだった照れ隠しのようなしかめっ面
瞬間、色褪せたはずの彼との思い出が鮮やかに蘇る。大したやり取りはしていない。クラスメイトの話や押し付けたバレンタインのチョコ、義理だとわかるくらい素っ気なくお返しにくれたクッキー
シンタローの回りから男女が離れていく。その隙に私は近づいて声をかけた
「シンタロー」
「っ…!?……サツキ…?」
「ひさしぶりだね」
「……ああ」
1年ぶりの会話は私たちを緊張させる。ああ、違うね。彼と話すとき私はいつもドキドキするから
大好き、大好き、大好きでした。今も変わらずに。
「今、幸せ?」
「……わからない。ただ、前よりは、……幸せだと思う」
その瞳にはまだ彼女が残っている。取り戻したいと、あの頃に戻りたいと悲鳴をあげながら。
でも確かに以前よりはなくなった気がする。シンタローを少しでも元に戻したのは彼女たちなんだろう
なら、良い。なら満足だ。あの子たちが彼を幸せに近づけてくれるなら、私はもう必要ない
口元に笑みが浮かべ微笑む。シンタローはそれを見て驚いたように私をみつめた
「シンタローに拒絶されたとき、言い忘れたけど……好きだった。アヤノより、私を見てほしくて一生懸命だった。でも、やっぱり二人お似合いだったよ。これからまたシンタローを愛してくれて、シンタローが好きになる人ができると思う……幸せになってね」
シンタローに背中を向け立ち去ろうとしたら、シンタローが私との距離を縮めてくる
「……その相手、お前が良い」
「え?」
振り向くと真剣な瞳をしたシンタローと目があった。熱くなる頬と身体。私はまだこんなに君が好きだったんだ
「正直あいつのことは吹っ切れてない。心のどこかでは自分のせいだって思ってるし…でも、もう後悔したくない」
差しのべられる手。でも容易にそれをとることはできない。
「わ、……私でいいの?」
「ああ。サツキがまだ俺を好きだったら、の話だけど」
照れ臭そうに視線を逸らすシンタローの視界に自分から入りにいく
「でも、シンタローはあの子が好きなんじゃ…」
「……さっきも言ったけど吹っ切れてはねえよ?ただ、うざいくらい俺の後ろを引っ付いてたお前が居なくなってから気づいたんだ。ああ、俺はまた繰り返した、って。お前のうざいくらいの笑顔が、俺の支えになってたんだよ。…信じらんないだろうけど」
信じられないよ……
だってシンタローが私を?こんなの私の都合の良い夢じゃないのかな
「つねって。私のほっぺた」
「は?……わかった」
「ありが……って痛い!いだだだだだた!」
シンタローは戸惑いつつも私の意思をくんでつねってくれた。……思いっきり
「夢じゃない……」
伸びた頬を押さえながら呟くと、シンタローが私の手を離し頬を撫でながら笑顔になった
「夢じゃねえって。サツキ好きだ。まだ信じられないのか?」
「……信じる」
差し出された手を今度は受け取り答える。
シンタローの頭から彼女が消えてほしいなんて思ってない。でもこれから作る二人の思い出が彼女との悲しい記憶を少しでも和らげてくれるって、信じてる
この手はもう、離さない。離したくない
そう呟くと握られた手に力が込められた