「い、いらっしゃいませー」
「もっと元気よく!いらっしゃいませー!!」
「くっ……いらっしゃいませー!」
「……まあこんなもんか」
精一杯の挨拶にちょっと不満そうなこいつはたかが1ヶ月先にバイトし始めただけで偉そうに俺を指導する先輩だった。メカクシ団の資金を蓄えるためとは言えコンビニはレベルが高すぎたかもしれない。まさか挨拶1つでここまで言われるとは
「あ、つぼみそれとって」
「……」
無言で渡すと返事しなさいと窘められた。ああもう面倒臭い!
「何かつぼみっていつも不機嫌じゃね?何で」
「…お前が俺を名字で呼ばないからだ」
「えー。だって可愛いじゃん。つぼみ」
不意に優しく微笑まれ胸が弾む。なんだこれは。なんで名前を呼ばれただけでこんな…可愛いと言ってるのは名前だとわかってるのに
「…まあ、呼びたいなら構わないよ」
「本当!?ありがとうつぼみ」
「べ、別に拒否しても好き勝手呼ぶだろうからな!……仕方なくだ」
そう仕方なく。仕方ないから呼ばせるだけのはずなのにどうしてこんなに嬉しいと感じてしまうんだ。これじゃまるで恋、してるみたいじゃ…
そう考えてハッとする。いやまさかそんな俺がこんな男に…それ以前に恋なんて女々しいことするわけがない。否定してもその考えが頭から離れない
「つぼみ?」
「うわっ!?」
「危ないっ!!」
ぐらついた脚立から落ちた俺をサツキが受けとめてくれた。その至近距離で感じた体温と匂いに目眩がしそう
「たく、気を付けろよ」
「すまん…」
「すみませんだろ?」
「……すみません」
素直になってしまう自分に驚くがそれどころではない。サツキってこんなに背が高かったか?細いと思っていた腕はがっしりとしていて身体も軽々と俺を受けとめている。
ああもうやめてくれ。こんなはっきり見せつけられたら受け入れるしかなくなってしまう
「よし。今度から気を付けろよ」
頭をポンポンとして仕事に戻るサツキ。待って行かないでほしい。もう少しでいいから話していたい…
「あっ、そうだ」
「お、俺に用か?」
「そう。はい」
手渡されたのは紙切れ1枚。それを食い入るように見つめているとサツキが咳払いをして告げた
「遊園地のチケット。……一緒に行こうぜ?」
少し照れたように言うサツキに自分も顔が真っ赤になるのを感じる
「……わかった。楽しみにしておく」
いつもより素直な言葉にサツキが満面の笑みを浮かべたのを見て更に赤くなったのは言うまでもない
自分が自分じゃなくなるみたいなこの気持ちに名前をつけるならそれは
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