お嫁さんの約束
「…何いれてんだよ」

「え?小豆だけど」

「お前っ…カレー作るんじゃなかったのかよ!?いらねえだろ小豆は!」

「美味しいのに…」

シンタローは小豆を取り上げさっさと元の位置に戻してしまった。今日はシンタローの家に泊まることになったから美味しい手料理を振る舞おうとしたけどそうでした。私は料理なんてしたことなかったのです

「ほら人参。あーそれとじゃがいもな」

「わかった!」

振る舞うはずのシンタローに指示され材料を運んでくる。本当にカレー作れんのかよ?と言いたげなすました顔は見ないふり

「…まじで期待してた俺が馬鹿だったか」


「ええ!?」

「な、なんだよ」

勢いよくシンタローに振り向く。聞き捨てならない

「期待してたの?私の料理」

「言ってねえし。忘れろ」

「嘘。言った」

身を寄せて追及するとシンタローはたじろいだ。居心地悪そうに口をモゴモゴさせ呟く

「だってサツキの手料理食ったことねえもん」

すぐに俯いてしまったが微かに見えたその顔は真っ赤だった。照れる彼の様子につられて私も赤くなる。うわ…何これ恥ずかしいことしてるみたい
恋人同士の男女がスーパーに夜ご飯の材料を買いに来て惚気てるみたいだ。実際近い状況ではあるんだけど

「…会計行くか」

「うん」

唯一違うのは私とシンタローがただの幼馴染みだってこと。まあ私は結構な時間片思い中なんだけど。昔、花の指輪なんか作ってプロポーズまでしてくれたことなんか無愛想なこいつは覚えてないでしょう。私は今でも考えただけで胸が踊るくらい鮮明に思い出せるのに

「あ、電話だ」

「誰から?」

「アヤノ」

目の間が真っ暗になった。大切そうに紡がれた名前。私とシンタローの間に入ってきた可愛らしい少女

「悪い、財布渡す。終わったら待ってて」

走り去るシンタローを見送って会計を待つ。あの二人はお互いを親友って言ってるけどアヤノがシンタローを好きなことは知ってる。シンタローは…どうだろうな。気付くのが嫌で見なかったからわかんないや。二人が付き合ったりしたら潔く諦めよう。

ああでも、こんな状況で取り残されるのは寂しいよバカ

会計をすませて夜道を一人走る。今は誰にも会いたくない

しかし帰る場所はシンタローの家しかない。私の親もシンタローの親も旅行中だから。家について適当にカレーを作り残った材料を放り投げうずくまる。

なんだろ私なんでこんなことしてんだろ

「っ、サツキ!?」

「シンタロー…!」

息を切らせたシンタローが入ってきた。汗を掻いていて帰り道ずっと走ってきてくれたのだろうか

「お前っ…、待ってろって言ったじゃねえか!何一人で帰ってんだよ」

「だって…アヤノと電話してたし……」

「ふざけんな。お前一人で帰らせるくらいだったら切るっつーの。……たく材料もぶん投げて。さっさと作って飯食うぞ。ってなんだよこれカレーじゃねえよ」

シンタローは優しすぎるよ…なんで幼馴染みの私にこんなに構ってくれるんだろう。今だって本当はアヤノといたいはずなのに

「…良いよ。アヤノのとこ行って」

「は?」

「だってシンタローはアヤノが好きなんでしょ?」

私がそういうとシンタローの目が大きく見開かれた

「…違うけど」

「嘘だよ。だって二人仲良いじゃん。行ってよ。アヤノなら料理も上手だろうし私一人でも」

「……誤解されたくねえから言うけど、俺好きでもない奴の手料理なんか食わねえから」

「………そう、そうだよね。ごめん」

好意しかなかったこの行動も迷惑だったんだ。作ったカレーを下げようとしたらシンタローが私の腕を掴みそれを止める

そしてカレーを食べまずそうに顔をしかめた

「ごめっ……!」

「……カレーにオレンジジュースはいらない。本当お前料理できねえんだな」

「だって…」

「でも、美味いもん食わせようとしてくれたんだろ?ありがとな」

不意打ちの笑顔に胸がときめく。そんな顔見せられたらますます諦められない……どうすればいいの…わかんないよ

「次は一緒に作るか」

「え……?」

「俺さ、前も言ったと思うけどあいつは親友。好きなのはお前」

「…ええ!?」

冗談かと思ったが真剣な表情が本気だって言ってる。待って、何、思考が追い付かない

「だからどんなに不味くても毎日食いたいのはサツキの手料理だけだ」

「毎日ってそれ……!」

ニヤッと口元を歪めいつもみたいに生意気な態度なのに私の頭を優しく撫でた

「お嫁さんになったら毎日味噌汁作ってくれるんだろ?」

「覚えてたの…!?」

まさかシンタローがあの約束を覚えてくれてたなんて…

「俺とサツキで世界で一番幸せな家庭を作ろう。だったよな?」

「うん……!」

ちょっとしたすれ違いはあったけど私たちは何年後かにはきっと素敵な素敵な家庭を築くでしょう

そのときのために美味しい味噌汁を練習しなくては…!

シンタローは不味くても良いなんて言いそうだけど、絶対見返してやるんだから!!

「じゃカレー食うか。いただきます」

「あ」

まずはカレーの練習から…かな




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