「今までありがとう。さよなら」
待ってなんでどうして俺の何が気に入らなかったの
彼女の腕を掴もうとした手は虚しく空を掴む
姫は俺に目もくれず立ち去っていく。徐々に小さくなるその背中を追いかけることもできない。待ってまだ伝えたいことがあるんだ。何度も言ったし聞き飽きたかもしれないけど大好き、愛してる
だから、ねえ待って
「っ…」
飛び起きると目にうっすらと涙が浮かんでいた。俺としたことが授業中にうたた寝をしていたらしい。静かな教室にカリカリと鳴るシャーペンの音、数人の女子がお喋りをして楽しんでいる。俺はあくびをしながら窓の外を見た。
つまらない
つまらないよ学校なんて
部活をやってるときはバレーに夢中になって君を忘れられるけど青く晴れた空を見ると君しか考えられない
フラれたときもこんな青くて白い雲だった。姫に別れを告げられたショックは案外大きくて胸の中がポッカリと空いてしまった
「及川、具合悪いのか?」
ボンヤリしていると先生に話し掛けられた。面倒臭いな話し掛けないでよ
「別に…あ、そう!そうなんですよ!具合悪いから保健室行ってきますね」
言うが速いか立ち上がり教室を出ていく。保健係の女子が付き添いたいと言ってきたがそれを笑顔で受け流し外へ向かう。彼女にフラれた後、泣き腫らした校庭へ
木が多くて日差しを遮るその場所はよく姫とサボったり昼飯を食べるときに利用した俺たちだけの場所だ。俺たちだけの…
「あ」
「ん?ああ、徹じゃん久しぶり」
「…久しぶり。サボってんの?」
「まあそんな感じ」
芝生に横たわっていた姫が起き上がり自分の隣に座れと促してくる。躊躇いながらも座ると姫は語りはじめた
「私さ、別れたときも徹のこと好きだった」
「…え?」
「でも徹は女の子みんなに優しいし段々私が特別じゃないように思えてきて…」
「そんなことない!俺は姫が…別れを告げられたときも、あとも今もずっと好きだよ」
「…ありがと。私ね、別れた後に気づいたの。誰にでも優しくて皆を笑顔にできる徹が好きだったんだって。別れを言うときも涙が出そうだったから振り返らなかったけど、あの時振り返ってたら…とか。気づくの遅いよね……今も徹の隣は空いてる?」
「…空いてるに決まってんじゃん!姫のために空けておいたんだよ?いつ戻ってきてもいいようにね」
この空いた胸の隙間に君がピッタリと収まった
「おかえり姫」
「ただいま徹」
「…ふふ、それにしてもこの俺をふるなんてね。覚悟しときなよ?もう離さないから」
ああ、今度は彼女にだけ惜しみない愛情を捧げよう
不安になんかさせない
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