あひる口じゃまだまだ


最近男子バレー部のある意味目立つ男は不運だ

ジャージに吐かれちゃったり女子にパンツを見られたりろくなことがない。しかしこいつの良いところはそれを不幸とは思わず他人を恨まないとこなのだ


「田中ー」

「……」

「田中?」

「……………」

話し掛けても反応がない。仕方ない、奥の手だ

「田中せんぱーい」

「ぶっ!?だ、誰…ってなんだ佐藤かよ……」

田中は可愛い後輩を期待したのか私だと分かった瞬間机にふて寝した。怒るぞこの野郎

「元気ないじゃんどうかした?」

「あー…お前にゃ関係ねえよあっち行けオラ」

「なんだとこの野郎」

耳を思いっ切り引っ張ると田中は飛び起きた

「いでっ!いててて痛いってスミマセン!スミマセンでした離せ」

「よろしい。……私には言えないこと?」

「……そんなんじゃねえけどよ、なんつーかあれだ失恋したんだよ」

「えっ潔子さん彼氏できたの?」

「……はあーーー」

田中は大きなため息をついて再びふて寝してしまう。でもそうか。潔子さん彼氏できたんだ。


「まああんな綺麗な人、今までいなかったのが不思議だよね」

「…お前はどうなんだよ」

「私?」

「彼氏できたんだろ」

「フリーだけど」

「は?」

「え?」

しーん、と私たちを包む空気が変わった。時が止まったように静かだ。田中はいつのまにか机から顔を離し私を見ていた

「は?え、ええ!?お前フリー!?嘘付け俺サッカー部のイケメンに告白されてたの見たんだからな!」

「あの人女癖悪いみたいだから断ったよ。だから今寂しく独り身なの」

「ま、マジかよ……」

脱力したように放心してる田中になんとなく悪戯心が湧く

「ねえ田中。寂しい独り身同士、付き合っちゃう?」

なんてことはないただの冗談だ。すぐに誤魔化そうとすると田中がいきなり立ち上がり私の肩を掴んできた

「田中?」

「そ、そうだな!それが良い!付き合うか俺たち」

「え」

「つかこの際言っとくけど潔子さんはただのあ、憧れみたいな感じで俺が好きなのは佐藤だから。振り向かせるから覚悟しろよ?」

くるりとターンしながらキメ顔を作った田中に不覚にも胸が高鳴った

「これから名前で呼ぼうぜ姫。あ、ムリ恥ずかしい……」

「……龍之介」

「っ!なしなしさっきのなしな!それ反則だろ……」

私の一言に顔を真っ赤にしてうずくまる田中に私まで顔が赤くなる

「な、名前だけで照れるなんてアホじゃないの…!」

「う、うううるせー!お前だって真っ赤じゃねえかお似合いで良いよな、な!」

無理矢理決めると田中は私に顔を近づけてきた。これはまさかキ……

「ってその顔やめて!あははは、はは」

「な、なんだよ」

「まだ早いって。焦らなくたって時間はたっぷりあるんだから」

キスするときにアヒルみたいに唇尖らせるようじゃ男としてまだまだ

ムードくらい作ってくれないと、ね



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