「女主、今日も可愛いね。暇なら水飲みに行かない?もう喉渇いてさー」
半兵衛がそう言いながら私に近づいてくる
「なら官兵衛も誘わない?ついさっきそこで会ったからまだ近くにいると思うよ」
「ええー良いよ官兵衛殿なんて!俺は君と二人が良いなあ」
可愛らしく小首を傾げる半兵衛の頭上に暗い影が射す。官兵衛がいつの間にか半兵衛の後ろにいたらしい
「相変わらずだな、半兵衛」
「なんのことかわかんないなあ」
「私を出し抜くつもりなら上手くやることだ」
「何の話?」
会話についていけず質問すると二人は振り向き半兵衛が内緒、と意地悪するときみたいにそっと言った
「仕方ないから三人で行こうか。少し遠いからどんどん進もう!!」
「うん」
「夕暮れまでには戻らねばならぬ」
「そんなにかかんないって!ほら歩く歩く!」
半兵衛に急かされ私と官兵衛は歩き始めた。井戸は森の奥の奥、少し入り組んだ場所にあるらしい。半兵衛の案内で進む
「あー歩くの面倒くさくなってきた。官兵衛殿おんぶしてよ」
「……」
「ん?どうしたの官兵衛……ってわあっ!!」
半兵衛におんぶを強請られた官兵衛は私に何故か近寄ってきて私をその大きな背に乗せた
「か、官兵衛っ!?」
「ああっ、ずるいよ官兵衛殿ー!俺も女主背負いたい!!」
「…疲れていると言っていただろう」
「それとこれとは別!女主は軽いからたいした変わんないって!」
私も疲れているけどそこまで言うほどじゃない。半兵衛に場所を譲るため、降りようとしたら止められた
「構わぬ。大人しくしておけ」
その言葉に再び官兵衛の背中にしがみ付いたのは、物騒な言葉とは裏腹にその表情が優しかったからだ。不意に胸が騒ぎ始める自分に気付き戸惑う
「……むー。官兵衛殿ばっかり」
「ひゃあっ!?」
半兵衛が官兵衛に飛び乗り私を引き寄せ頬に口付けをしてきた。驚いて半兵衛を見つめると悪戯が成功した子供のような表情を浮かべていた
「ははは、油断した君が悪いんだよー」
「……半兵衛、卿は本当に性根が腐っているな」
「官兵衛殿には敵わないよ」
笑いながらも火花が散っているのが見える二人に、まさか先に水飲みに行ってもいいかなんて聞けるはずがない
いつの間にか歩みを止めていた官兵衛はいつもの怖い顔、半兵衛はいつもよりも黒い気がする顔で見つめあっていて、私はどうすることもできないまま夕暮れ
本当にどうしてこんな状況になったのだろう…?
このあと二人同時に告白されることを私はまだ知らない
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