執務を終わらせ外の空気を吸いに表へ出ると幸村の侍女である女主が槍の素振りをしていた
「何をしてる」
「三成殿」
俺に気づいた女主は素振りをやめ駆け寄ってくる
「やめなくても良い。鍛練をしているのか」
「はい。少しでも幸村様を知りたくて…」
槍を強く握り占めるその表情は武士に勝るとも劣らない輝きを放っている。見たところ筋は確かに良い。しかし幸村への好意が見て取れるのが気に食わない
「ふん…幸村を知りたいというよりあいつに取り入ろうと考えているのではないか?」
「なっ…!違います私は…」
「何をされているのですか三成殿」
木々の間から幸村が現れた。槍を持っているところを見るとこいつも鍛練をしに来たのだろう
「俺は何もしてない。だが、女主が槍を嗜みたいそうだ。鍛えてやったらどうた?女にはいらぬ技術だと思うがな」
「槍を嗜んでいたのか?女主」
「は、はい…僭越ながら」
「いや良い心掛けだ。お前の槍、この幸村が受けよう。さあ!」
「え、え、え??」
幸村は女主をぐいぐいと引っ張っていきついにその姿は見えなくなった
お互い気がついていないがあの二人は両想いだ。いつ恋人になるのか周囲もハラハラしながら見守っている。俺もその中の一人だ
だけど一生懸命幸村に尽くす女主を見ているうちに心惹かれたのもまた事実で、幸せそうな二人を見るたび胸が痛む
しかし女主の笑顔が見れるならこのままで良い
二人の稽古が見れる位置まで行き木の間からのぞき見る
真剣に槍を打ち合う姿は傍から見てもお似合いだ
嬉しそうな女主を眺めていると口元が勝手に弧を描いた
二人の邪魔をする気など起きない
遠くから彼女を見守るだけで幸せだから
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