ある鍛練の日

「はぁっ」


「ふ、やぁ!」


いつものように幸村と鍛練をしていた


「くっ、流石です女主殿」


「…話せる余裕あるんだ。私じゃ鍛練にもならないってこと?」


幸村の重たい槍を弾きながら言うと、彼は焦りながら返事をする


「いえ!そのようなことは決して……!」


「隙ありっ」


一気に距離を詰め幸村の脇腹へ峰打ちしようとした

が、


「うわっ…」


「女主殿!」


……なんとも情けない話だが私は体制を崩し転んだ


「お怪我は…」


不意に言葉をきった幸村の視線を辿ると私の太ももに血が流れていた


「私の槍で…」


「掠ったみたいだね。騒がせてごめん幸村。続き」


しよう、と最後まで言うことはできなかった


幸村が私を抱え走り出したからだ


「え?幸村何して…え?」


「申し訳ありません、堪えてください」



道行く人の目に堪えたらどこかの部屋に座らされた


「足を出していただけますか」
「いや、それは…」


怪我をしている足のことを言っているのだと気づいたが、躊躇う


「すぐに済みます」


「大した怪我じゃないし痛みには慣れてるからいいよ。」


むしろ大怪我なら良いが、かすり傷だし痛くもないので幸村とはいえ男性に足を晒すのは羞恥心が邪魔してしまう


「跡が残ってしまいます。どうか、私に手当をさせていただけないでしょうか」


幸村の真摯な瞳に、気づいたら頷いていた




幸村は壊れ物を扱うような手つきで手当をする


正直とてもくすぐったい


「……ははっ」



耐え切れず笑ってしまう


「…なぜ、笑っているのですか」



「何でだろうね」



私が答えを濁すと幸村は少し困ったように笑う



「女主殿は跳ねっ返りでいらっしゃいますね。」



「でも、そんな私が好きなんでしょ?」



「……はい、とても」



幸村は幸せそうに笑っている


その瞳に映る私も幸せそうに笑っていた






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