――お昼時。
大量にある報告書に目を通し一段落したのを機に昼食を取ることにした。今日は体の状態があまり良くないらしく、食欲がわかなかったがエネルギー不足は困るため無理やり押し込む。
食堂の威勢の良いおばさんにうどんを頼み、数分も経たないうちに出来上がった物をトレイに乗せて席へ向かう。ガヤガヤと賑わう中、何処に座ろうかと視線を巡らせれば大きな椅子に小さな子供…そのアンバランスな光景は目立つもので、すぐに目についた。

「千代菊。」

おもむろに近づいて子供の名前を呼ぶ。その子供――千代菊はびくりと肩を大きく上下させた後にゆっくりとこちらへ振り向いた。どうやら食べ物がまだ入っているようで口をモゴモゴと動かしている。

「グロリア も お昼 か ?」

ゴクリと細い喉に食べ物を通してから、そう問う千代菊の口調はどこかカタコトしている。何となく彼の容器を見れば唐辛子が散りばめられている調査隊でも食べる人は少ない激辛カレー。なるほど把握。

「……ん、そんな所。隣座るよ。」
「どんと 来いっ」
「で、何で無理して激辛カレーなんか食べてるの?」

相手から許可が降りたので隣に腰かけ、パキリと割り箸を割ってうどんを啜る。うどん特有のさっぱりした味と暖かい汁は食欲が無くても抵抗無く体内に入れられるので今の僕には非常にありがたい。
一方辛いのが苦手なくせに何故か唐辛子カレーを頼んだチャレンジャーは、その口に残る辛さを堪えるために眉を引き締めた険しい表情である。まだ幼い彼には刺激が強すぎるのか目尻にはじわりと涙が溜まっていく。

「無理 なんか してないぞっ…」
「ん、涙目だけど。」
「これは 汗 だっ…!」

ふるふると震えながらも気丈な態度は崩さずに意地を張る調査隊の幹部の一人。そのプライドの高さは僕も嫌いじゃないが進まない食事とその言葉が合っていない。やんわりとそれを指摘してやると彼は眉をギリリと吊り上げた。

「僕は 普通、の 子供 とは 違う!」
「そうだね。」
「だから 辛い カレー だって 平気だっ」
「……ふーん?」
「やつら 僕が 子供 だからって バカ にしてっ!バカ に して!」
「……ああ、うん。わかったわかった。」

何故ここまでムキになってるのか――答えは、また部下にからかわれたのだろう。声を荒げて憎々しげに机をダンダン叩くと呪い事を呟く千代菊に言葉をかけても面倒なので適当な相槌を打って、うどんを啜る。量が少なくなるのに比例して体が食べ物を拒み始め、段々と喉につっかえてくる。

「おい、ちゃんと聞いているのか?」
「はいはい、凄いね…。」

それでも無理をして半分くらい食べ終えると体の方は"もういらない"っと拒否反応を起こす。隣の千代菊が僕の相槌に苛立った視線を向けたが素知らぬ顔を装う。しかし顔色が悪くなってきていたのだろうか、小さな幹部は今まで怒りに身を震わせていたのに、いつのまにか僅か心配するような視線を送っている事に気がつく。この子供は本当に変化に敏感だ、たまに自分の事を見透かすような瞳を向けるのに腹が立つ。そんな目で見るな。

「―………グロリ、」
「早く食べないと合同会議に遅れちゃうよ。幹部様?」

心配するような目線が不愉快で、逃げたくて、彼が何かを言うより先に作り笑いを浮かべて立ち上がる。そんな僕を変わらず不安そうな瞳で見上げていたが、会議(幹部がそれぞれ担当している地区についての話し合い)の事を言ってやれば慌てた様子でまたモクモクと食べ始めた。


合同会議まであと30分―


――――
自分の体調や変化を見透かされるのが怖いグロリアと良く分からないけど何となくおかしい、と異変に敏感な千代菊。
二人は何とも言えない関係になりそう。

ちなみに千代菊は無事に会議前に激辛カレーを完食したけど会議中にお腹を壊して早退したよ!


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