「リテラルくーん、僕は退屈だよ。」
「それはそれは。私は忙しくて死にそうです。でてってくれませんかね。」

ある実験の測定を始めた14時の事――実験結果が出るにはまだ時間があり、その合間にレポートでも書こうと思ったけど気分が乗らずに情報工学室に遊びに来た<押し入った>僕をリテラル君は憎々しげで何処かダークな雰囲気を彷彿させる笑みを浮かべて軽くあしらう。彼の視線の先は薄いディスプレイに映し出された細かな文字の羅列。

「この研究室はお菓子もでないのかね?」
「あいにく貴方に見合う高級な品物は置いていなくてね。お引き取り願います。」

情報工学室に遊びにきたのはつい30分前の事。最初は他愛ない話に付き合ってくれた彼だったが研究中に雑談されるのはさぞや鬱陶しい事だろう―時間が経つにつれて言葉に棘が段々入るようになり今や語尾に必ず"帰れ"をつけてくる。


だが僕はめげない。リテラル君がどんな反応をするのか…今度は偉い人よろしく胸をはってふんぞり返ってみる。すると心にも無い言葉を淡々とした口調で返した後、やっぱり"帰れ"と言ってくる。彼の目線の先はディスプレイから分厚い論文に移っていた。


「ドキ★女の子のスカート捲り大会とかしようよー」
「私にそのような趣味はありません、自分の持ち場に戻れ。」
「勝敗の基準は<<"一番セクシーな下着をつけた人"を見つけた方>>です。」
「漠然とした基準ですね、ハウス。」

強敵だ…僕的にはさ、もっとさ。慌てたり赤面したり動揺してほしいのにさ…。僕の言葉に何の感情も含まず即座に言い返すこの男を暇つぶしに弄るのは間違っていたのだろうか…情報工学室に備え付けられた椅子から熱い視線を送る。彼の目線の先は相変わらず厚い論文…

「――リテ」

次の言葉を言おうとしたその時に丸っころい石のような物が飛んでくる。パシリとキャッチして飛んできた方向、つまりリテラル君の方を見れば彼の目線はぶ厚い論文でもなく薄いディスプレイでもなく僕をまっすぐに見つめいた。やったね僕の愛が通じたんだ嬉しい。

「…ようやく構ってくれるんだ。何、コレで愛のキャッチボールでもするの?」
「断じて違います。……ソレは貴方の研究室に沢山ある物ですよ。以前お借りした物ですがこの機会にお返しします。」
「…え」

てっきり遊んでくれるのかと少し期待していただけに彼から言われた言葉に惚けてしまった。キャッチした石から湧き上がる不快な感覚とリテラル君の言葉に嫌な予感を感じる。体中がざわめいている原因を確認するため石を改めて見れば、それは深い海のように澄んだ色をしていて中央部がゆらゆらと水のように揺らめいて…これは……

「…水の石じゃんかよぉおお………!」
「か え れ。」

驚きよりも嫌悪感が先走って水の石を咄嗟に放り投げる。進化の石を触るときは手袋と特殊な石(変わらずの石)持っていないと、僕は気持ちが悪くて触れない。体に妙な力が湧いてきたり、まるで今までの自分ではないような感覚が走って大嫌いなのだ。

「…じょ、冗談が過ぎるよリテラルくんっ!下手したら僕がシャワーズに進化しちゃうとこだったよ!いきなり僕の変身シーンの御披露目してたかもしれなかったよ今の!」
「大変失礼致しました。ああ…そろそろ測定が終わった頃ではないですか?」
「む」

怒りはわかないが、これはやりすぎでは無いだろうか!渾身の非難を彼に浴びせても涼しげにすました顔は変わらず、更には僕を追い出す理由付けまでする始末…いつか、この水の石を顔にぶちこんでやる。
そんなちょっとした殺意を胸の中に秘めると、リテラル君の言うとおりに椅子から立ち上がって扉へ向かう。このまま言うとおりにしないと何をされるか分からない気がするからだ。

「じゃ、帰りまーす…」
「明日、お昼をご一緒しませんか」

扉に手をかけ言葉を投げかけると予想外なお誘い。表情はいつもの喰えない笑顔ではあるものの優しい声音だし…リテラル君ってツンツンデレだよな、と考えながら頷いて手を振って別れる。さぁ、暇つぶしは終わりにして研究に集中しますか。


―――
二人は何気に仲が良い。
投げ捨てられた水の石はまた後日、変わらずの石+手袋+厚手の服装という重装備なクルティラによって回収されました。


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