「海霧…」
「あ、あははは…」

夕方時でオレンジ色の柔らかい光が差し込む調査隊本部の廊下―
私は山ほどの書類を両手に抱えた仕事仲間をじりじりと壁際に追い詰めている。私が一歩足を踏み出すと海霧は後ろに一歩後退する。そんなやり取りを10分弱……。

「どこで、」
「…」
「そんなに、」
「…」
「お仕事貰ってきたの?」
「え、えっと…えへへ…」

単語をわざと一区切りづつ置いて距離を詰めていく。私の目線の先の海霧はそのたびに困ったように視線を宙にさ迷わせ、最後には力無い愛想笑いを浮かべて誤魔化している。

「それ、海霧の仕事じゃないでしょ?」

眼孔を鋭く細めて顎でくいっと彼女の手にあるソレを差した。ギクリと笑みを固まらせた後に、わざとらしく惚けたように首を傾げて私の質問の意味が良くわからない、といったオーラを醸し出す彼女。そんな見え見えな誤魔化しなんて許すはずも無く尚も睨みつければ、肩を萎縮させ居心地が悪そうに上目遣いで言葉を紡ぐ。

「あ、えっと…空から落ちてきたみたい…?」
「んなわけあるか!」


しかしその言葉はあまりに不自然すぎる。何よ、空から仕事が落ちてくるって何よ。もっとマシな嘘つきなさいよ。思わず手を振りかざしてオーバーリアクションなツッコミをした私は目立っていたのであろう―周囲の人が何事かと送った視線が物凄く恥ずかしい。

そんな恥ずかしさを無くすために再度、一歩踏み出す。彼女も同じように後退。じりじりと睨み合う。これでは堂々巡りだ…海霧は相変わらず眉を下げて困ったような笑みを浮かべているものの、こんな時の彼女はやけに頑固で意固地な部分がある。今回は譲る気がないのだろうと何となく分かった。私の負けだ。

「……貸して。」
「……え?」
「ほら、貸して。そんな量、海霧1人じゃ無理だよ」
「あ、で、でも…」
「良いから。…私も仕事終わるし暇だから付き合うよ。」

ため息を一つ吐き出して緊張した空気を取り払うように、"ほらっ"と両手を差し出せば、海霧は酷く申し訳なさそうに眉を下げてゆく。きっと彼女の事だから私に負担になったら悪い、だとかそんな下らない事を思っているのだろう。再度、言葉と共に手で書類を催促する。

―数秒。

ここだけは引かないという私の意志が海霧に伝わったのだろうか、戸惑いつつも彼女はふわりと微笑んで、ズシリと重い書類の山の一部を渡してくれた。
その重さに今日は徹夜じゃないかと考えて少しだけ…本当に少しだけ後悔した。

自分の力量で仕事を受け持ちなさいよ…!!

―――――
海霧は良い人すぎて仕事を押し付けられるのはしょっちゅう、むしろ自分からも手伝いに行くので増える一方だと思う。

やしろはそれを見て少しは断れ!って思っているけど、そんな海霧がわりと好き。


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