御題 | ナノ
atro-ala

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「好きになった」

部活を終えて学校を出たのが19時ちょっと前。
基本的に、18時の絶対下校時間には学校を追い出されるのだが、今日は延長届を出していたのでこんな時間帯である。そしてそういう日には決まって、日向と伊月は二人揃って例のファーストフード店で軽く夕食を取るのだ。

一時間目の体育で最近の有耶無耶にけりがつき、そしてその日に二人きりになるのだから、これは神様が思い立ったが吉日を実行しろと言っているに違いない。なんてことを二時間目の数学の時間に脳内で繰り広げて、脳内神様に罵倒を浴びせてみたが腹の立つ笑い方をして去っていった。
今日一日の授業は完全に右から左で、部活はそれなりに集中していたが軽い突き指をしてしまう始末である。一限終了時から様子がおかしいと聞きつけた伊月が、自分が馬鹿にしたせいだと変な勘違いを起こして今日の夕食を奢ると言い出し、そして現在例のファーストフード店。

「…え、何を?」

伊月の変な勘違いを解決するのに大した時間を要するわけもなく、悩みがあるなら聞くけど、と申し出た伊月にぶつけてみたのが冒頭一言目である。
最近のお気に入りらしいチーズバーガーから相変わらず食べられないピクルスを抜き出してナプキンの上に放る寸前のまま一時停止している伊月は、日向の顔をこれでもかと見つめている。
伊月 俊という人間は、先の通りどこか抜けていて天然なところがある。もしかすると日向の言った“好き”が掛かるものを、クラスの女子か何かだと思っているのかもしれない。いや、チーズバーガーか。

「お前が、だよ」
「……ピクルスじゃなくて?」

そっちかよ!とツッコむ気も起きず、寧ろ簡単に想いを告げられた事に驚いていた。女の子と恋愛ごとをしていた時は、緊張やら何やらで冷静さにまるで欠いていたというのに、もしかしたら最初からそっちの気があったのかもしれない。

「お前を、好きになった」

改めて告げると、伊月はこれでもかと目を見開いた。漆黒の宝玉が綺麗だと素直に思う自分にぞっとしながらも、それを不快には思わない。

「…オレも、好きだけど、日向のこと」

でも日向の好きとオレの好きは、きっと違うんだろ。
チーズバーガーのパンを少しだけかじりながら、伊月はドリンクのストローをくわえていた日向を上目に見た。猫のような瞳が日向を真摯に映し出していた。

「……じゃあ…さ」

何が“じゃあ”なのか日向には分からなかったが、次に紡がれる言葉に少しだけ緊張を覚えて無意識に伊月の口元を凝視する。チーズバーガーを小さくむぐむぐと咀嚼し嚥下し、ケチャップのついた唇を赤い舌で舐める仕草が、それだけのことが愛おしい。

「……おとしてよ」

長いような短いような間をおいて、伊月はぽそりと呟いた。口角を少し上げた、悪戯に成功したかのような顔だった。

「オレをおとしてみせて、日向」

言いながら、伊月の左手は日向からオレンジジュースを奪って一口。チーズバーガーにはオレンジが一番だと言うくせに、伊月はいつも珈琲で日向がオレンジだ。自覚してみればこれは所謂関節キスだと知る。こんな些細なことで心拍停止は御免だが、勢いはそれだった。

「………バカ伊月」

そう言って日向は、伊月の右手のチーズバーガーを一口奪ってやったのだ。


今からきみに告白します
(っあ、俺のチーズバーガー…!)
(オレのオレンジ取るからだ)
(日向、それいただきまーす!)


今からと言わず初っ端から告白してますが気にしない。
うちの伊月はちょっと抜けてます。

20111019







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