御題 | ナノ
atro-ala

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伊月 俊、という人間について考える。

彼の容姿は、一言で言えば美麗である。黒い髪は根元から梳き通したようにさらりと流れて絡まるところを知らず、驚く程に艶やか。やや切れ目がちに縁取られた瞳は、まるで犬か猫かのように大きな宝玉だ。
運動部らしくついている筋肉も、隆々というわけではなくしなやかで、全体からすればかなり細い方である。

彼の中身は、一般的な意見を採用するなら確実にクールだが、しかし自分が知るところによれば、そんな言葉は適応しない。
彼は実はとても甘えたで寂しがり屋である。と言っても誰かに甘えたり絡み付いたりしているわけではなく、不器用故にそれが出来ないからだ。ついでに、見た目を裏切って面倒臭がりな一面があり、頭の中で話を進めてから口に発する傾向にある為、時々話についていけなくなる。

さて、何故日向が伊月について悶々と考えているかと言うと、実際日向の視界に伊月がいるからである。違うクラスではあるが、クラス単位など素知らぬ体育という授業は合同で行われるのが常で、出席番号順に並べば必然的に伊月は日向より前だ。
……というのは結果論で、実を言えば最近伊月ばかりを意識してしまっているからに他ならない。
伊月を見かける度に、目が勝手に伊月を追っている。誰かと笑い合っているのを見掛ければ、意味もなく誰かに苛立ちを覚えてしまう。

(………なんなんだよ、これ)

人はそれを恋と呼び、そして例に漏れず日向もこの感情を恋だと知っている。しかしそれは簡単に認めるには事が事なのも事実だ。もう何年も一緒にいる“友人”をそういう目で見ることを認めるならば、それはもう“友人”ではなくなる。ましてや男女というわけでもない。

(っ…くそ)

前で何か喋りたくっている体育教師の話など素通りで、日向は伊月を見つめる。先程終えた準備体操のランニングで汗をかこうと、あの艶やかな髪はべたつかないことを知っている。どんなに綺麗な女が画面の中で乱れるより、伊月の白い肌に汗が流れる方がよっぽと綺麗だと思えてしまう。

「日向、聞いてるのか!」

ぶつりと切られた思考にふと現実を見れば、すぐ目の前に目を吊り上げた体育教師が立っている。日向より小さなその身長が、そういえば伊月と同じくらいだ。

「今から何をするか、聞いてたか!?」
「え、」実際全く聞いてなかったが、こういう時に下手に口を出せば職員室行きになるものである。日向は体育教師の目から態とらしく顔を背けて、反省しているような態度を演じた。結局早々に日向から興味をなくした教師は、集団の前に移動しながらまた始めから説明しだした。話を聞く気はさらさらなかったが、職員室行きだけは避けたいが為に顔だけは見ておこうと顔を上げる、と。

(………う、わ)

日向を見ていた伊月と、目があった。白い肌に伝う汗と、そしてやはり鮮やかな黒の髪をもつ伊月は、昨晩伊月を忘れたくて意味もなく見ていたAV女優なんかよりよっぽど綺麗で、可愛い。
そんな伊月は、此方の気を知ってか知らずか、漆黒の宝玉を少し細めて、唇を小さく動かした。

“ばーか”

と。


この恋、きみ色
(あまりに綺麗に笑うものだから)
(何時の間にか釘付けになっていたんだ)

20111019







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