第一印象を良くしとけば大体何とかなる
朝早くに露天風呂に行きお昼に帰るということで身支度をしていた。
来たときと同じくスーツ。
今回お忍び、ということで真選組の制服ではなくスーツ着用だったのだ。

「ま、こんなもんか」

一泊、しかも息も帰りもスーツということで荷物は極端に少なかった。
チェックアウトまで暇だということで旅館内を詮索することに。
スーツ、という格好は目立っていたが気にしない捺希。

ふと話し声が聞こえた。

「ん?」

少し言い争っているようなそうでないような声が聞こえる部屋まで近づいた。
どうやら大広間らしい。
横の札を見れば団体予約らしく名前があった。

少しだけ開いている襖の間から覗き見た。


「おう、どっから入ってきたんだガキ」

大きいいかつい男たちに囲まれる小学生くらいの子供。
がしりと子供の頭を掴んだところで捺希が入って行った。


「おい、兄(あん)ちゃんたち…虐待はだめだよ虐待は」

いきなり背後から聞こえた声に一斉に振り向く。
その中に見知った顔。

「おい、関係ねぇだろてめぇにゃ」

よく知った顔の男が捺希の胸倉を掴んだ。
捺希は内心溜息をつき久しぶりに見るその男を見上げた。
男も捺希を知っているようで不機嫌に顔を歪ませた。

「いや、ガキをリンチしようとしてるのをスルーは出来ないだろ普通は」

「うるせぇ!いいから関係ないなら出ていけ」

溜息をついて捺希は胸倉を掴む男の手を払い二の腕あたりを掴み足を払う。
男は宙を大きく舞い派手に転ばされた。

「なにしやがるこのアマァ!!」

投げ飛ばされた男は一瞬何があったのか理解できず固まっている。

他の男たちも襲いかかってきたが同じように派手にぶん投げた。
最後子供の頭を掴んだ男だけになりそいつも襲いかかってくる。
殴りかかってくるその拳を紙一重で避けその腕を後ろでひねりあげた。
自分よりも格段に小さい少女に掴まれているというのに一切動かせない、抜け出せない。


「さ、行きな」

「え、」

「いいからここはまかせな」

「は、はいっ」


そう言って部屋を走り去って行った。


「さて、兄ちゃんたち…」


厭らしく笑う捺希。
それがとても恐ろしく見えた。
 

「こらいったいどういうこっちゃ」


部屋に入ってきたのはこれまた懐かしい顔に懐かしい七三分け。

「あ、アニキ!!」

アニキと呼ばれた男と捺希の目が合った。

「「あ、」」

「なんや、姐さんやないですか!」

「おお、勝男!久しぶりだな!」

「ホンマに久しぶりに会うましたな」


親しげに話す二人に周りは付いていけず。
「え、なに?アニキと知り合いなんかこの女?」状態。

「ところで姐さんはどないしてこないなところへ?」

「あー将ちゃんのお守?」

「あー…なるほどな…で、姐さんそろそろそいつ離したってください」

「あ、悪い」


あっさりと手を離す。
捺希を警戒したように見る。

「で、何があったんや?」

「ああ、それはな…」


今までのことを話した。
すると勝男が部下を怒鳴り散らした。
その部下たちがしたのは次郎長一家の強きを挫き弱きを助ける、という志に反するものだったから。

「まぁ落ち着けって…聞けば勝手に入った子供も悪かったわけだし…注意の仕方が悪かっただけなんだよきっと」

そう一応フォローを入れた。
男たちは投げられたことなんて忘れたかのように「姐さん…」なんて呼び始めた。

ただ一人を除いて。


捺希の顔を見て顔をこれでもかというくらい不機嫌に歪ませて部屋を出て行った。

「なんや春はどないしたんや」

「さあ…」

「あー…」

気まずそうに捺希は頬をかいた。

「多分私の所為だな…」

「?」

「春、咲久乃 晴彦は私の兄なんだ」

「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ?!?!?!?!」」」」






「なっそうやったんか…」

「ああ、でも多分私が真選組なの知らないと思うけど」

「はぁ?!姐さん真選組なんかにおるんですか?!?!」

「え?ああ」

「なんでまた…」

「守りたいものがあったんだよ」


それを聞いて何も言えなくなる勝男。
無理はせんでくださいね、オジキも心配してはります。と捺希を見る。

「…今度会いに行くか」

「そうしてあげてください」


その後二、三言話して捺希は部屋から出て行った。



廊下を出て暫く歩けば先ほどの男の子が居た。
その横には捺希と同い年位の女の子。

「ん?」

「先程はありがとうございました!」


男の子の目線に合わせてしゃがみこむ。


「あ、さっきの…大丈夫だったか?怪我とか」

「はい、大丈夫です!」

「ならよかった」

そう言って少年の頭を撫でた。
横の女の子も頭を下げた。


「本当にありがとうございました」

「あ、この子のお姉さん?お礼なんていいって別に大したことしてねぇし」

「でも助けてくださいましたし」

「いいって、それにある意味私の仕事だしな…」

「え?」

「なんでもない、それよか少年…探検もいいけど気をつけるんだぞー」

「はい!」


そう言って立ち去ろうとする捺希。

「あのっ!」

「ん?」

「お名前は、なんていうんですか?」

「捺希、咲久乃 捺希だ」

「捺希さん、私毛利 蘭っていいます!」

「僕は円谷光彦です!」

「蘭ちゃんに光彦な…また縁があったら、な」

「はい!」










(あり、何処行ってたんですかィ?)
(あーちょっと人助け)
(へぇ…)

(おい、捺希!早く準備しろ!もう出発すんぞ!)
(へーい)
(総悟、テメーもだ!)
(…うるせェ土方死ねよ)
(そおおおおおおおごおおおおお!!!!!)  →
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