私はあの件以来悟を避けている。というか、避けてなくても仕事があって結局会う事は無かった。私は3日間の出張を終えて報告書をまとめて悟のマンションにでも行こうかなと思って鍵を見たけれどやっぱり自分の部屋に帰る事に決めた。何というか気まずくてメッセージ一つすら送れていない。硝子の所へ逃げ出した日、硝子の言う事がごもっとも過ぎて私は返す言葉を失った。「というか、結婚に関して五条とちゃんと話くらいはしたのか?」と言われた時『してません。』としか返す事しか出来なかった。 そもそも、話をしなくてはならないのだ。「名前からしたらただ逃げただけだろうけど五条からしたらこの世の終わりだろうな。」と言われたのも頷ける。 別れたい訳ではない。ただ、仕事どうすんの?これからどうなるの?五条名前になるとして五条家で認められるの?とかそもそも同じマンションで暮らすの大丈夫なのか?悟と私にとって適切なのは互いにパーソナルスペースを持ってる現状ではないのか? 結局こんな話を本人としなければ始まらないのだ。 とりあえず、ジュースでも買って飲んで帰ろう。と思って居たら夏油君に会った。 悟が絶対夏油君に何か言ってるだろう事だけは分かるから若干どころかだいぶ気まずい。 そんな私を気にする事も無く夏油君は自販機でミネラルウォーターのボタンを押すと私に「ちょっと話をしないかい?」と笑顔で言って来る。 流石にここで走って逃げる程子供でもないし馬鹿でもない。 悟の時はびっくりして条件反射のごとく逃げちゃっただけなのだ。 「お疲れ様、出張だったんだよね。」 『ああ、うん。夏油君もお疲れ様。』 「名前、あのね。悟の事なんだけど…」 やっぱりか、とは思って居た。というかいっそむしろ出た、とさえ思った。 夏油君には申し訳ないけれどまだ悟と話すべき要件を脳内で箇条書きにしてまとめたい位だがその作業がまだ追い付いて居ないのだ。 「悟、ずっと私の部屋に居るんだよ。もうずっと。任務とかが無かったらずっと私の部屋に居るんだよ。」 『え?どういう…』 「名前にプロポーズされたら急いで逃げられたって聞いた日からずっと私の部屋に居座ってるよ。心当たり位はあるだろう?」 『あ、はい。本当申し訳無い。』 「悟も君も大人なんだ。私が口を挟むのはお節介に当たる訳でするべきではないんだけどね…流石に私も疲れて来たんだよ。毎日ずっと愚痴言って子供みたいに拗ねてるから。」 『あ、あー…本当夏油君に申し訳…無い。』 「せめて悟と話くらいするべきじゃないかな?そもそも何で名前は逃げだしたの?」 何で、と言われて言葉に詰まってしまった。現状夏油君が悲惨な状況にある事だけは痛い程分かった。というか、非常に申し訳ないの言葉しか出て来ない。悟に対してもそこまでの事になるとは思ってなくて申し訳なくなる。 喧嘩になっても良かったから私のパニック分質問して話をするべきだった。 って言うか若干悟何やってんのって気持ちもあるけどやっぱりどう考えても私のせいである。 『…パニックになっちゃって。』 「悟と結婚するの嫌だったの?」 『嫌な訳じゃないんだよ。ただ純粋にパニックになった。え、この人が結婚とか言う?これ現実?とか思っちゃって。』 「まあ、それは分からなくもないかな。悟は結婚とか言う形にこだわるタイプじゃないと思うしね。驚くのは無理も無いよ。けど逃げたのは中立の立場で話を聞いてもいい事じゃないのは分かる。名前も分かってるよね?」 『うん、逃げ出したのはよく無かった。あー…悟とこのまま別れちゃうのかな…』 「それはないんじゃない?そんな事は言って無かったし。一人でネガティブ突き進んでるだけで。」 『とりあえず、悟と話してみる。』 「それが賢明だね。遅くなればなるほど面倒だと思うよ。 実際面倒になって来てるから。日に日に。」 『げ…』 「げ、じゃないからね。さあ今から悟に電話しよう。大丈夫私も着いててあげるから。」 着いててあげるから、と夏油君は言うがそれは「私が見てる間にさっさとしろ。」の意味も完全に含まれている。間違い無い。 私はため息を吐きながら携帯を取り出して五条悟をアドレス帳から出して通話ボタンを押した。ちょっとでないで欲しいと言う気持ちすらあるほどに気まずい。 身から出た錆とはこの事だ。私の希望は残念な事に2コールで打ち砕かれる。 「名前!?」 『悟…あの時は…えっと、逃げてごめん。とりあえず、話したいから今日悟の部屋行っていい?』 「うん。」 『怒ってる?』 「はぁ…怒ってると思う?僕にそんな気力残ってると思う?」 『すいません。とりあえず、今から向かうので。』 「あ、僕も帰る。」 短い電話を終えてスマホの通話終了ボタンを押すと夏油君が「やっと静かに眠れるよ。ありがとう。」とぽつりと零す。本当に私がパニックを起こして逃亡したせいで色んな人に迷惑がかかってしまったようだ。 next |