そもそも僕が何かしたのか?と聞きたくなるような状況だった。
傑の家で昨日飲んだ酒のせいでめちゃくちゃ気分の悪い朝を迎えて先に出た傑に言われるままに勝手にシャワーを借りて自分の部屋に戻ってみるも名前は戻って来た形跡は無い。
とても仕事に行く気持ちになんてならないけどこれまた仕方なく僕は着替えていつものアイマスクを着けてマンションを出て高専に向かった。
今日は体術の訓練をするから1年生と2年生を組ませてそれを見ながらやっぱり僕の思考はよく分からない彼女の名前へと向いてしまう。

まず、プロポーズした状況が悪かったのか。せめてそこそこいい店でも予約してすべきだったのか。だけど名前はどちらかと言うと形にこだわるタイプでも無いし高級志向でも無い。逆にそんな事をしたら『部屋で普通に言って欲しかった』というタイプだ。
なら指輪が悪かったのか、と考えるけど僕なりに普段読みもしない結婚の雑誌を買って読んで女性の憧れラグジュアリーブランドと書いてあったページのブランドで一番良さそうなものを選んだしケチったりもしていない。しかも名前の好きそうなシンプルめなデザイン。
本当に何が悪かったのか分からない。あれ?もしかして僕がうまくいってると思ってただけで名前側はそうじゃなかったのか?と嫌な考えが頭をよぎる。
勘弁してよ…と思うが付き合い始めた高専生の頃を思い出してみると心当たりは痛いほどあるし、大人になってからも心当たりならあるもんだからため息が出そうになる。

「おーい、恵、ちゃんと受け身上手に取らないと次手に繋がんないよー。」

「悠二ー、悠二は逆に突っ込み過ぎー。冷静さは必要不可欠だよ。」

この状況で生徒に声かけをちゃんとして見て居る僕は本当に偉いと思う。
勿論この子達をしっかり育ててあげなきゃいけないのは当たり前なんだけどそれでも偉いと思う。適当な所で切り上げて、学科を任せている教師にバトンタッチして僕は伊地知に呼び出されて伊地知の車に乗って居た。僕は暇ではない。
こんな状況でも指導もあれば、呪霊だって大人しくしてくれるわけではない。ため息を吐いたら伊地知が焦ったように「五条さん疲れてます?」なんて言うものだから、僕は溜まっていた胸の内をボロボロと伊地知に愚痴っていた。

「伊地知ー…僕って結婚したくない男だと思うー?」

「はい?」

伊地知は聞き返したものの返答に困っているようで、信号が赤になるまで小さな声で唸りながら必死で答えを絞り出しているようだった。別に脅したい訳じゃないんだけどなあ。
一般論として聞きたかっただけなのに。

「…えーっと五条さんは素晴らしい呪術師です。」

「うん、そだよねー。僕って最強だからねー。」

「でも、一般的にどうなんでしょう。結婚って五条さんと結びつきにくいというか…あ、すいません。」

「いや、伊地知僕怒ってる訳じゃないから。で?その一般的…とやらを聞きたいんだけど。」

「正直七海さんの方がイメージはしやすいですね。ほら、しっかりされてますし。」

「…僕がしっかりしてないって?」

「そうじゃないですって…というより五条さんは…もう辞めましょう。私の胃が痛くなって来ました。それより今から向かう任務の説明をします。五条さんだから余り心配はいらないのですが…」

伊地知はそう言って強引に任務の説明に切り替えた。僕は簡単に必要な個所だけ拾って頭に入れて行く。…七海はしっかりしていてイメージしやすい。けど僕はしにくいってなんだって言うのだろうか。僕だって何なら七海より先輩で、アイツみたいに一般社会経験は無いけどこの世界なら立派に経験して来た方だ。
だけど伊地知が言った「五条さんと結婚は結びつきにくい。」がやけに頭の奥にひっかかる。名前もそうだったのだろうか。



結局任務はあっさりと片付いて、仕事にでも集中しておきたかった僕は珍しく真面目に速攻で報告書を渡して伊地知を喜ばせてしまった。
別に伊地知の為じゃない。
携帯を開いても名前からの連絡は無い。ちょっと調べてみたら、3日間出張になっていたからそりゃあ来なくても仕方ないのは無いんだけど。
結局僕はまた傑に連絡して傑の部屋に押しかけて、ソファに鎮座していた。
傑は初日は迷惑そうにしていたけれど、なんだかんだ優しい奴だから僕がこうしていても文句を言わなくなった。

「ねえ傑。今日さ、伊地知に言われたんだけど僕ってそんな結婚と結びつかない?」

「いきなり何だい?」

「だーかーらあ、僕って結婚とそんな無縁そう?七海の方が向いてそうとまで言われたんだけど。」

「あはは、伊地知は的を得てると思うよ。まあ世間一般から見たらねえ。そうだろうね。」

「傑から見たらどうなんだよ。」

「…うーん、向いてない方だと思う。だって悟我儘でしょ。結婚って生活だよ?
君は基本マイペース過ぎて我儘な所があるからね。」

「付き合い長い友人はこうやって遠慮が無くて助かるよ。」

「だけどほら、名前は君のそういう所含めて一緒に居たんだから大丈夫だろ?」

「もうフォローになってない。僕しばらく傑の家で生活する。」

「え、やだよ。」

「こっちがやなんだよ。」

そう言って僕はしばらく傑の家に居座ってやる事にした。
本当にどいつもこいつも言葉のチョイスに配慮ってものが無くて困る。
だけど困るのはどれも事実だという事だ。


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