吐き気や体調不良は幸いな事に一か月過ぎた頃には治まっていた。
まだ、そこまで身体に変化もないし実感がそこまで湧かないけれど定期的に病院に行く時だけは傑が必ず予定を合わせて着いて来てくれた。
きっと、傑が離反もせずに呪術師を続けて居たとしてもこの未来はあったのだろう。
うっすらとそれだけは確信を持てる。私がこの事を知らせると美々子ちゃんと菜々子ちゃんは以前よりも私達の部屋に来る頻度が増えた。そして「嬉しい」と何度も言ってくれた。
傑や二人の行動は不安だらけだった気持ちを大分和らげてくれるものだった。
ある程度体調が落ち着いた頃、傑に出掛けようと言われた。こんな事は病院以外ではほぼない。あまり傑は離反後以来、人の多い所を好んで行く事は無かった。
基本的に徹底していたのだ。そんな傑がタクシーまでマンション前に呼んでいた事には流石に驚いた。

『ねえ傑、どうしたの?』

「ん?どうしたのって何が?」

『いや、傑がこうやってタクシー乗ってるのなんて…珍しくて。』

「自分の目で見たかったからね。それより体調は大丈夫かい?辛くなったらすぐ言ってね。」

『うん、体調は大丈夫だよ。』

タクシーの中で小声でそう言うと、傑が気を遣ってくれているのだけは感じるんだけど傑がわざわざ避けて居た一般世界のようなもので見たいものなんかあるのだろうか。
一緒に着いて来て長い期間居た筈だけど傑がこうしてどこか必要外で出る事なんか無かったのにな。なんて違和感ばかり感じる。
傑が「ここで。」と言って車を止めた先は店の軒先に小さなサイズのマネキンが子供服を着用している。傑は何の違和感も無いかのように入って行くと、するするとベビーコーナーに行って肌着やら、ベビー服やらを躊躇なくかごに入れて行く。

『傑、まだ性別も分かってないのに…こんなに買うの?』

「分からないからどちらでも大丈夫な色にしてるよ。いいじゃないか。これぐらい買ったって。」

真剣にベビーコーナーで「これも可愛い。」なんて言って凄まじい勢いで衣類を選んでいく傑に『気が早いね。』って笑ってしまう。だけど、傑はそれだけにとどまらずに幼児用の衣類もサイズ違いのものをさくさくと選んではかごに入れてレジへ置いておいてもらう。

『あ、あの…赤ちゃん用だけで良くない?』

「良く無いよ、必要だろう。それに可愛いよ。」

『まあ、確かに可愛い服だけど。』

「そうじゃなくて、可愛いのは私達の子供だよ。」

大量に衣服も布で出来た恐らく赤ちゃん用だろうぬいぐるみも購入すると恐ろしい金額になっていたが傑は涼しい顔をして支払いを済ませる。
「身体辛くないかい?」と言って大量の買い物した荷物を持つ傑に『大丈夫だよ。』と告げると今度は可愛い子供用の玩具専門店のような所へ行ってまた恐ろしい程大量に購入してしまった。『流石にそこまで持ちきれないよ』と言ったけれどあっさりと「配送してもらえばいいじゃないか。」と言われて傑の大量購入は阻止する事は叶わなかった。結局また幼児やベビー用品を置いているお店へまた行っては、最後にさっぱりしたフレーバーティーを買って私達は岐路に着いた。


部屋に戻ってソファに座っていると、傑がノンカフェインのハーブティーを淹れてくれた。そして購入した衣類のタグを丁寧に切って行く傑は真剣そのもので作業を続けている。

『ねえ、傑でも浮かれるんだね。』

「そりゃあね。それに、出来る事は出来るだけしたいじゃないか。」

『…けど、多分傑5歳児位までの買ってたけど。流石にびっくりしたよ。』

「何となくいいなって思ったから買ったんだけど、その時使えばいいじゃないか。」

『まあ、そうだけど。』

「あ、ベビーベッドとかも買わなきゃいけないね。他にも…」

『ちょっと傑落ち着こう。それは…』

「そうだね、かさ張るから配送にしよう。」

『うん?』

「こんな事に早過ぎるって事は無いと思うよ。」

『ふふ、そうかもね。』

「名前、何で笑ってるんだい?」

『なんでもないよ。』


結局後日、傑が選んだベビーベッドや大量のベビー用品が届いて私は若干頭を抱えたけれどそれも傑が帰宅後機嫌良く組み立てをしてくれていたので若干暴走気味な傑の行動には何も言う事はしなかった。
何となく微笑ましく感じられたのだ。


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